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#329 【銀行業】株式会社ひろぎんホールディングス(7337)の人的資本開示|有価証券報告書(2026年3月期)

1. ひとこと総評

株式会社ひろぎんホールディングスは、「地域の成長なくして、当社グループの成長なし」という強烈な当事者意識のもと、地域総合サービスグループへの進化を目指す企業です。特に注目すべきは、人的資本を「最大の財産」と明確に位置づけ、人事制度を根本から改定する(初任給の大幅引き上げや役職定年の廃止など)という強いコミットメントです。
本開示では、「専門性とマネジメント能力を持ち合わせたゼネラリスト」と「ソリューションを生み出すスペシャリスト」という「求める人財像」が明確に定義され、それに対する各種施策が理路整然と展開されています。一方で、ダイバーシティ関連の指標は充実しているものの、新制度が意図した「専門人材の育成成果」を示す定量データの開示には、今後の伸びしろを感じます。総じて、地銀の枠を超えて地域課題に切り込むための「人づくり」に本気で取り組む、ポテンシャルと変革意欲の高さが伝わる優れた開示内容です。

2. 人的資本開示 4つの評価ポイント概要

以下の4つの評価ポイントについて、倉庫管理人独自の視点で評価(◎, ◯, △, ×、※情報不足の場合は「-」)を行いました。

評価ポイント 評価 一言コメント
① 経営戦略との連動性 地域開発ビジネス等の注力分野に対し、必要な専門人材の育成と配置が極めて論理的にリンクしています。
② 開示データの数値と変化 一人当たり人的資本投資額やエンゲージメント指数など、独自のKPIとその目標が明確に開示されています。
③ 一貫したストーリー性 「人的資本を最大化する5つの柱」に沿って、現状の課題から施策までが美しく整理され一貫しています。
④ 戦略、人事、従業員処遇体制の一貫性 役職定年の廃止や給与水準の引き上げなど、戦略を実現するための人事制度改定が明確に落とし込まれています。

3. 評価ポイントの深掘り分析

各項目について、【評価できる良い点】と【今後の課題・改善点】をセクションごとに分けて詳細に分析します。

① 経営戦略との連動性


【評価できる良い点】
経営戦略(中期計画2024)における「地域社会・お客さまのあらゆる課題の解決(業務軸の拡大)」を実現するために、「求める人財像」を極めて解像度高く定義している点が高く評価できます。具体的には、「専門性とマネジメント能力を持ち合わせたゼネラリスト」と「ソリューションを生み出すスペシャリスト」の2本柱を明記し、法人ソリューションや地域開発ビジネスといった注力分野へ専門人材をバイネームで育成・配置しています。経営戦略と人材戦略の歯車が見事に噛み合っており、タレントマネジメントシステムの導入によってオープンな人材配置を実現しようとする姿勢は、戦略実行の強い推進力となります。

【今後の課題・改善点】
求める人財像や育成方針は非常に明確ですが、具体的な「リスキリング(学び直し)」のプログラム内容(例えば、どのようなデジタルスキルや金融専門知識の研修を実施しているのか)や、DX分野の専門人材の「人数規模(目標に対する充足度)」に関する詳細な開示が見当たりません。戦略上重要なポジションに対する人材の充足状況が可視化されることで、連動性の説得力はさらに高まると考えられます。

② 開示データの数値と変化


【評価できる良い点】
法定開示項目である女性管理職比率などに加え、同社独自のKPI(重要業績評価指標)を豊富に開示し、それぞれに2027年3月期・2031年3月期の目標を設定している点は非常に優秀です。特に、「一人当たり人的資本投資額」について、2024年3月期の155千円から2026年3月期には241千円へと着実に増加している実績を示した上で、「300千円程度」という明確な目標を掲げています。また、「エンゲージメント指数」や「褒める文化・チャレンジする風土の醸成に係る指数」といった組織の健全性を測る定性的な要素を定量化し、その推移をトラッキングしている点も、データドリブンな組織運営の証左と言えます。

【今後の課題・改善点】
各種データは豊富に開示されていますが、サクセッションプラン(後継者育成計画)の成果を示す指標(例えば、「ひろぎん経営塾」の修了者数や、次世代リーダー候補のプール数など)の開示が見当たりません。経営の持続性を担保する上で重要なデータであるため、これらが指標として追加されることで、開示の網羅性がさらに向上します。

③ 一貫したストーリー性


【評価できる良い点】
「なぜその人材投資を行うのか」という背景が、地域の社会課題(広島県の転出超過など)と結びつけて論理的なストーリーとして語られています。「人的資本を最大化する5つの柱」というフレームワークのもと、「人財マネジメント」「DE&Iの実践」「ボーダーレスな働き方」「エンゲージメント強化」「ウェルビーイング支援」という各要素が有機的に繋がり、最終的な企業価値向上へと帰結するストーリーは見事です。特に、新規ビジネス創出プログラムから「ひろぎんナレッジスクエア」などの新会社が実際に誕生しているエピソードや、地元企業ネットワーク「HATAful」の立ち上げなど、チャレンジする風土が「実践」として結実している事例が記載されており、ストーリーに力強い説得力を持たせています。

【今後の課題・改善点】
若手や中堅層の挑戦(ビジネスコンテストなど)に関するストーリーは充実しているものの、ミドル層やシニア層の活性化に関する具体的なエピソードが見えにくい点があります。例えば、先任制度(役職定年)の廃止によって、ベテラン社員がどのように新たなモチベーションを見出し、組織に貢献しているのかというストーリーが加わることで、全世代を巻き込んだ変革の物語としてさらに完成度が高まります。

④ 戦略、人事、従業員処遇体制の一貫性


【評価できる良い点】
経営戦略を実現するために、人事制度の根幹にまでメスを入れ、抜本的な改定を行った点が最大の特徴であり、高く評価できます。初任給や給与水準の引き上げといった処遇改善にとどまらず、「先任制度(役職定年)の廃止」によって年齢による一律の処遇から適性や能力に応じた処遇への転換を図っています。また、「職務によるコース区分制度の改定」や「遠隔地手当の新設」など、従業員の多様なキャリア志向やライフイベントに配慮した制度設計が行われており、戦略(求める人材の確保・定着)と処遇体制が完全に一貫しています。さらに、役員報酬制度においてもESG外部機関評価を業績指標に組み込むなど、トップからボトムまで持続的な成長に向けたインセンティブ設計が徹底されています。

【今後の課題・改善点】
人事制度の大幅改定(職能資格制度の改定、職務等級制度の導入)が明記されていますが、「具体的にどのような評価基準で職務や成果が評価されるのか」という評価制度の詳細に関する開示が見当たりません。透明性の高い評価基準が示されることで、従業員がどのように自律的にキャリアを描けば良いのかが明確になり、さらなる納得感の醸成に繋がると考えられます。

4. まとめ

株式会社ひろぎんホールディングスは、単なる地方銀行の枠組みを超え、「活力ある地域の実現」に向けて自らが率先して変革を起こす、非常に野心的な地域総合サービスグループです。その変革のエンジンとして「人的資本の最大化」を掲げ、従業員への投資額を大幅に引き上げるとともに、役職定年の廃止や給与水準の引き上げといった、旧態依然とした金融機関の常識を打ち破る人事制度改革を断行している点から、その本気度が強烈に伝わってきます。


就職活動中の大学生や転職を考える若手人材にとって、同社は「自らの手で地域社会の課題を解決するビジネスを立ち上げられる環境」と言えます。「ひらめき☆1Day's(越境業務体験)」や副業制度の導入、さらにはビジネスコンテストからの事業化実績など、年齢や年次に関係なく手を挙げれば挑戦できる風土が整っています。また、エンゲージメントやウェルビーイングといった「働く人の幸福度」を重要視し、それを経営指標として管理している点は、長く働き続ける上での大きな安心材料です。
一方で、人事制度が大きく変わった直後のフェーズであるため、実際の評価基準やキャリアパスがどのように運用されていくのかは、選考過程で「現場のリアルな声」として確認することをお勧めします。地域の発展と自らの成長を重ね合わせ、主体的にキャリアを切り拓きたいと考える人材にとって、これ以上ないほどエキサイティングでやりがいのあるフィールドが用意されています。