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#323 【証券業】株式会社大和証券グループ本社(8601)の人的資本開示|有価証券報告書(2026年3月期)

1. ひとこと総評

株式会社大和証券グループ本社は、「お客様の資産価値最大化」をグループ経営の基本方針に掲げ、人材を競争力の源泉と位置づけることで、非常に高度で体系的な人的資本経営を実践している企業です。経営戦略コンサルタントの視点から見ても、同社の有価証券報告書はトップクラスの透明性と戦略性を持った開示内容であると評価できます。

特に目を引くのは、「Pay for Performance(成果に応じた報酬)」を体現し、直近4年間で提出会社(持株会社)単体の平均年間給与を1,220万円から1,793万円まで大幅に増加させている点(※グループ最大人員を擁する大和証券単体でも約1,431万円と高水準)や、「ファイナンシャル・ウェルネス(社員の経済的な健康)」にまで踏み込んだ従業員支援を行っている点です。また、健康経営やダイバーシティに関しても、「エル休暇」や「Daiwa ELLE Plan+」など、現場のニーズを的確に捉えた施策が網羅されています。

一方で、多種多様な制度が導入されているものの、それらの一部制度の「利用実績」や、「定性評価の具体的な基準」についての記述が見当たらない点は、今後の情報開示における伸びしろと言えます。就職活動中の大学生や転職を検討している若手人材にとって、同社は「高い専門性を身につけ、成果を出せば報われる」というキャリアの魅力と、手厚いサポート体制を併せ持つ非常に魅力的な研究対象です。

2. 人的資本開示 4つの評価ポイント概要

以下の4つの評価ポイントについて、倉庫管理人独自の視点で評価(◎, ◯, △, ×、※情報不足の場合は「-」)を行いました。

評価ポイント 評価 一言コメント
① 経営戦略との連動性 ウェルスマネジメント強化の戦略に対し、資格取得やデジタル人材育成などの施策が強力にリンクしています。
② 開示データの数値と変化 エンゲージメントや男女の賃金差異の背景分析は秀逸ですが、未達KPIの要因分析に一部情報不足があります。
③ 一貫したストーリー性 健康経営から経済的支援に至るまで、社員のパフォーマンスを引き出す論理的なストーリーが展開されています。
④ 戦略、人事、従業員処遇体制の一貫性 給与水準の大幅な引き上げは評価できますが、一般社員向けの定性評価の具体的な基準の開示が見当たりません。

3. 評価ポイントの深掘り分析

各項目について、【評価できる良い点】と【今後の課題・改善点】をセクションごとに分けて詳細に分析します。

① 経営戦略との連動性


【評価できる良い点】
同社は中期経営計画において「ウェルスマネジメントビジネスの強化とアセットマネジメントビジネスの高度化」を掲げています。この戦略の実現には、お客様の高度なニーズに応える専門性の高い「高付加価値人財」が不可欠です。この経営戦略に対し、人事戦略が極めて精緻に連動している点が高く評価できます。
具体的には、社員の自律的な学びを支援するため、世界約29万の講座から厳選されたオンライン動画学習プラットフォーム「Udemy Business」を導入しています。さらに、高度な金融知識の証明である「CFP資格」の取得者数が1,775名(2026年3月末時点)と金融業界最多水準に達している事実は、資格取得支援制度(受講料や受験料の補助)という人的資本投資が、実際の「専門人材の育成」という成果に結びついている強力な証拠です。
また、デジタル技術を活用してビジネス変革を担う人材を育成するための「デジタルITマスター認定制度」や「Daiwa Digital College」の導入も、AIやデータサイエンスを活用したソリューション機能強化という事業戦略の方向性と完全に一致しています。さらに、キャリア採用(中途採用)の比率が26.9%(2025年度)に達している点も、多様な知識・経験を持つ人材を外部から積極的に取り込み、組織のケイパビリティ(企業としての組織的な能力)を迅速に高めようとする戦略の表れと言えます。

【今後の課題・改善点】
適材適所の人財ポートフォリオを構築するための施策として、「自己申告制度」や自ら応募して異動を実現する「グループ内公募制度」を導入している旨が記載されています。しかし、これらの制度が実際にどの程度の規模で運用されているのか(年間応募者数や異動実現数など)といった、具体的な利用実績のデータ開示が見当たりません。制度が存在するだけでなく、実際に従業員の自律的なキャリア形成にどれほど貢献しているのかを定量的に示すことができれば、人事戦略の実効性をさらにアピールできる伸びしろとなります。

② 開示データの数値と変化


【評価できる良い点】
同社は、企業業績との関係性が検証されている「持続可能なエンゲージメント(目標達成に向けた高い貢献意欲や組織に対する強い帰属意識)」をグループKPIに設定し、そのスコアが84%(2025年度)であると開示しています。単にスコアを公表するだけでなく、外部機関であるWTW(ウイリス・タワーズワトソン)の「日本基準値」を上回っていること、さらに生産性(収益/労働時間)や離職率と統計的に有意な相関があることまで分析・開示している点は、データドリブンな人的資本経営のお手本と言えます。
また、非常に高く評価できるのが「男女の賃金差異(67.1%)」に関する背景分析です。単なる数値の報告にとどまらず、「2009年度まで基幹職と事務職を分けたコース別採用を行っており、相対的に賃金の低い事務職の女性比率が高かったこと」が主な要因であると、過去の制度に起因する構造的課題を包み隠さず誠実に説明しています。さらに、基幹職かつ管理職に絞った場合の差異は89.3%であると補足データを提示することで、読者に正しい実態を伝達しようとする姿勢はコンサルタント視点から見ても非常に信頼性が高いです。

【今後の課題・改善点】
労働安全衛生・健康経営に関する指標において、「プレゼンティーイズム損失割合(病気やケガがない時に発揮できる仕事の出来を100%とした場合の生産性低下の割合)」の実績が14.5%(2025年度)となっており、2030年までの目標である「10.0%未満」に達していないばかりか、前年度から改善が見られていません。しかし、この目標未達に対して、どのような要因が影響しているのか、また目標達成に向けて今後どのような具体的な改善策を講じる予定なのかという「要因分析と次の一手」に関する記述が見当たりません。ネガティブな数値に対する打ち手の開示は、今後の重要な改善点です。

③ 一貫したストーリー性


【評価できる良い点】
同社の開示は、社員のパフォーマンスを最大化するためには「社員の心身の健康」だけでなく、「経済的な安定」も不可欠であるという、非常に多角的かつ一貫したストーリーで構成されています。
特に「ファイナンシャル・ウェルネス(経済状況の健全性)」という概念を取り入れている点は先進的です。社員の家計が悪化すると、ストレス増大による生産性低下やコンプライアンス上のリスクが高まるという合理的なリスク認識のもと、「奨学金返済サポート貸付」や「職場つみたてNISAへの奨励金」といった具体的な経済支援策を展開しています。これは金融機関ならではの説得力のある施策です。
さらに、健康経営の領域では、CHO(最高健康責任者)を設置し、「Daiwa ELLE Plan+」や「エル休暇」といった女性特有の健康課題(フェムテックの活用や不妊治療対応など)に対する手厚いサポート体制を構築しています。また、AIを活用したウェルビーイングプラットフォーム「ハービット」を導入し、自ら健康増進を図る環境を整備するなど、身体・精神・経済のすべての面から社員の「ウェルビーイング(心身ともに良好な状態)」を高め、最終的な企業価値向上へと繋げる見事なストーリーが描かれています。

【今後の課題・改善点】
「エル休暇」や「奨学金返済サポート貸付」、オンライン診療などの非常に魅力的な制度が多数紹介されていますが、これらの制度が「実際にどの程度の従業員に利用されているのか」という利用率や取得件数に関する記述が見当たりません。優れた制度であっても、現場で利用しづらい雰囲気があれば形骸化してしまいます。各制度の利用実績のデータを開示することで、「制度が現場に浸透している」というストーリーの説得力がさらに強固なものになります。

④ 戦略、人事、従業員処遇体制の一貫性


【評価できる良い点】
経営戦略の実現に向けて、従業員と経営陣の双方が「企業価値の持続的な向上」という同じ方向を向くための処遇体制が極めて高いレベルで一貫して構築されています。
一般従業員に対しては、「Pay for Performance」の哲学を徹底し、2022年度以降も継続して給与水準を引き上げ、累計で25%以上のベースアップ等を実施しています。その結果、提出会社(持株会社)単体の平均年間給与が2021年度の1,220万円から2025年度には1,793万円まで急増(4年間で47%増加)している事実は、成果に対して圧倒的な報酬で報いるという同社の姿勢を証明する強烈なファクトです。また、グループ人員の過半を占める大和証券単体においても約1,431万円という高水準に達しています。さらに、グループ従業員持株会を通じた「特別奨励金拠出制度」の導入により、従業員にも株価上昇を意識させる仕組みを整えています。
役員報酬においても、業績連動型報酬に「ファントムストック(自社の株価に連動する現金決済型の報酬制度)」や「譲渡制限付株式(RS)」を組み込んでいるほか、SDGs関連債リーグテーブルやエンゲージメントサーベイスコアといった「サステナビリティKPI」を評価体系に組み込んでいます。これにより、財務的な成果だけでなく、非財務的な組織の健全性や社会貢献も報酬に直結する、非常に高度で一貫したガバナンスが構築されています。

【今後の課題・改善点】
従業員の評価・処遇体系について、「定量的な成果に加えて行動や姿勢等の定性面も考慮した総合的な評価を行い」と記載されています。しかし、この「定性面」において、具体的にどのようなコンピテンシー(行動特性)や企業理念に基づく行動が評価の対象となるのかといった、詳細な評価基準の記述は見当たりません。成果主義(Pay for Performance)を掲げる中で、数字に表れないプロセスやチームへの貢献がどのように評価・還元されるのかが明確になれば、処遇体制に対する公平性や納得感の強さをさらにアピールできる伸びしろとなります。

4. まとめ

株式会社大和証券グループ本社は、「お客様の資産価値最大化」という揺るぎない経営方針のもと、その実現を担う「人材」に対して圧倒的な投資とリターンを約束している企業です。就職活動中の大学生や、転職を検討している若手人材にとって、同社は「高度な専門性を身につけ、成果を出せば、業界トップクラスの処遇で報われる」という、非常に魅力的な成長環境を提供しています。

Udemy Businessの導入や資格取得支援など、自律的に学び続ける意欲のある人材にとっては最高のインフラが整っています。また、女性の健康課題をサポートする「Daiwa ELLE Plan+」や、男性社員の育児休業取得率が93.2%に達している実績など、ライフイベントとキャリアを両立させるための本質的なダイバーシティ&インクルージョンが機能している点も見逃せません。

一方で、有価証券報告書の開示からは、成果以外の「プロセスや行動(定性面)」がどのように評価されるのか、あるいはプレゼンティーイズム(出勤しているが生産性が低下している状態)の課題に対して現場でどのような対策が打たれているのか、といった細部までは読み取れない部分もあります。これらは開示上の伸びしろと言えるポイントです。

同社への入社を志望する場合は、インターンシップやOB・OG訪問などの機会を活用し、「実際の現場では、数字以外のどのようなプロセスやチーム貢献が評価されているのか」や「多様な制度(エル休暇や社内公募など)は若手でも気兼ねなく利用できる風土か」について直接質問してみることをお勧めします。表面的な高い給与水準だけでなく、その背景にある「厳しさと温かさ」のバランスを自身の目で確かめることが、最適な企業選びに繋がるでしょう。