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#293 【金融・保険業】株式会社第一ライフグループ(8750)の人的資本開示|有価証券報告書(2026年3月期)

1. ひとこと総評

経営戦略コンサルタントの視点から、株式会社第一ライフグループの有価証券報告書(2026年3月期)における人的資本開示を読み解きました。

同社は、2026年4月に「Daiichi Life」へとグループブランドを刷新し、伝統的な生命保険会社の枠組みを超えた「保険サービス業」への進化、そして「グローバルトップティアに伍する保険グループ」を目指すという野心的なビジョンを掲げています。人的資本開示からは、その変革の原動力を「人財」と位置づけ、社内公募制度の拡充やジョブ型人事制度の導入など、これまでの安定志向から「挑戦と変革」を強く促す組織風土へと舵を切っている姿勢が鮮明に読み取れます。法定開示を大きく上回る豊富なデータ開示からは、自社の現状を客観的に把握し、透明性をもってステークホルダーと対話しようとする真摯な態度が伝わります。

一方で、新しい制度の導入が進む反面、その制度を活用した結果としてのビジネスへの具体的な波及効果や、高度専門人財の定着率など、一部の実態を示す指標の開示にはまだ伸びしろが残されています。事業ポートフォリオの大変革期にある大企業において、自らキャリアを切り拓く強い意志を持つ人材にとって、非常にエキサイティングで成長機会に溢れた企業だと言えます。

2. 人的資本開示 4つの評価ポイント概要

以下の4つの評価ポイントについて、倉庫管理人独自の視点で評価(◎, ◯, △, ×、※情報不足の場合は「-」)を行いました。

評価ポイント 評価 一言コメント
① 経営戦略との連動性 グローバル・DXへの事業転換と、それを担う専門人財の獲得・育成方針が極めて高く連動しています。
② 開示データの数値と変化 法定項目を超えた独自の非財務KPIが、実績の経年変化とともに網羅的に開示されており優秀です。
③ 一貫したストーリー性 「人的資本インパクトパス」による論理展開は秀逸ですが、制度利用後の具体的成功事例が不足しています。
④ 戦略、人事、従業員処遇体制の一貫性 ジョブ型人事制度等による処遇の変革は評価できますが、現場での具体的な評価基準が開示されていません。

3. 評価ポイントの深掘り分析

各項目について、【評価できる良い点】と【今後の課題・改善点】をセクションごとに分けて詳細に分析します。

① 経営戦略との連動性


【評価できる良い点】
株式会社第一ライフグループは、2030年に向けて「グローバルトップティアに伍する保険グループ」及び「日本の保険業界の未来を先導する存在」となることを目指し、国内保険、海外保険、資産形成・承継アセマネ、新規(非保険)、IT・デジタルの5つの事業戦略を推進しています。このビジネスポートフォリオの抜本的な変革を支えるため、「多様な人財が可能性を最大限に発揮し、挑戦と変革を実現する」というスローガンを掲げ、事業戦略と人財戦略を強く連動させている点が非常に高く評価できます。

具体的には、IT・デジタル領域の強化に向けて全社的な「DX人財育成プログラム」を展開し、基礎的なリテラシーや国家資格(ITパスポート等)の取得を要件とするPhase2「デジタル活用層」に約4,300名を認定するなど、実効性のある育成策が明記されています。また、グローバル戦略を担う人財育成として、外国人講師との実践的なアセスメント「Global Pool Assessment(GPA)」を導入し、目標を上回る281名が基準に到達した実績を開示しています。さらに、事業領域の拡大に向けて、新卒採用における「スペシャリティコース」の拡充(全体の約4割を占める)や、直近2年で新卒を上回る規模の「キャリア採用(中途採用)」を実践し、多様な専門性を持つ即戦力人財の獲得を推進している事実は、経営戦略に必要なピースを人事面から確実に埋めにいく一貫した姿勢を示しています。

【今後の課題・改善点】
事業の多角化・グローバル化に向けた人財の「獲得」と「育成」については具体的な施策が詳細に開示されている一方で、高度な専門性を持つ人財の「定着(リテンション)」の成果を示す定量的な開示が不足しています。たとえば、外部から獲得したキャリア採用者の定着率や、激しい人材獲得競争に晒されているIT・デジタル領域における専門人財の離職率といった具体的な数値の記述は見当たりません。優秀な人財が社内で長期的に活躍し続けているかを示すデータが開示されていない点は、今後の情報開示における伸びしろと言えます。

② 開示データの数値と変化


【評価できる良い点】
人財戦略の進捗を測定するためのKPI(重要業績評価指標)が、施策の一次的効果である「アウトプット」と、最終的な成果である「アウトカム」に整理されて詳細に開示されている点は、他社と比較しても極めて優秀です。

アウトカム指標として、従業員の組織に対する貢献意欲や働きがいを示す「エンゲージメントスコア」(※従業員が会社の理念や目的に共感し、自発的に貢献しようとする意欲や組織への愛着を示す指標)を経営の重要指標と位置づけ、実績値が65.0から67.6へと継続して上昇していることを明記しています。また、アウトプット指標においても、法定開示項目を大幅に超える独自のデータが豊富に開示されています。具体的には、多様性を示す「女性役員比率(13.7%→18.2%)」「女性組織長比率(19.1%→22.0%)」が2030年の目標である30%に向けて着実に進捗していることがわかります。さらに、「Udemy受講者一人あたり学習時間(8.1時間→32.7時間)」の大幅な増加や、「男性育休平均取得日数(23.1日→36.7日)」の伸長、生涯設計デザイナーの「入社3年目在籍率(66.6%→70.8%)」の改善など、従業員の自律的な成長意欲の喚起や働きやすさの向上が、客観的な数値の経年変化として証明されている点が高く評価できます。

【今後の課題・改善点】
非常に多岐にわたるKPI実績が開示されている一方で、一部の指標において「目標値」の設定が曖昧な部分が存在します。たとえば、最終的なアウトカムである「エンゲージメント総合スコア」や、健康経営に関連する「プレゼンティーズム」については、目標が「設定なし」と記載されており、会社としてどの水準をゴールと見据えているのかが読み取れません。また、Udemy受講者数や一人あたり学習時間などの目標も「拡大」という定性的な表現に留まっています。すべての指標に対して具体的な数値目標と達成期限(例えば「〇〇年度末までにスコア〇〇達成」等)が明記されれば、外部から見た戦略の進捗度合いの透明性がさらに高まると考えられます。

③ 一貫したストーリー性


【評価できる良い点】
組織が直面する課題から解決策の実行に至るまでのストーリーが、「人的資本インパクトパス」という形で極めて論理的かつ一貫して描かれています。同社は、新たなパーパス(存在意義)である「共に歩み、未来をひらく 多様な幸せと希望に満ちた世界へ」の実現に向け、組織の現状の重点課題として「主体的なキャリア形成文化の定着」「公平な不平等の実現・浸透」「多様な人財ポートフォリオの形成」の3点を抽出しています。

この課題を克服するため、「従来の会社主導のキャリア形成から、その主体を社員一人ひとりへと移していく」という明確なストーリーを打ち出し、それを具現化する施策を充実させています。具体的には、社内公募制度である「Myキャリア制度」(応募者数550名)や、国や会社の枠を越えて挑戦できる「グローバル・ジョブポスティング」(応募者累計118名)、さらには若手管理職を対象に国内グループ会社の社長職を公募する「『社長やります!』プロジェクト」(応募者21名)など、手挙げ式の挑戦機会を次々と提供しています。これらの施策が、単なる制度の羅列ではなく、「社員の主体性を引き出し、エンゲージメントを高めることで、結果的に生産性向上や企業価値向上に繋がる」というストーリーラインの中に明確に位置付けられている点が素晴らしいと言えます。

【今後の課題・改善点】
「キャリアの自律」を推進する制度の整備や応募者数の増加といったプロセス(過程)のストーリーは詳細に語られていますが、それらの制度を活用した結果、どのように事業の成長や社会課題の解決に寄与したかという具体的な成功事例の記述が見当たりません。たとえば、社内公募やグローバル・ジョブポスティングで異動した人財が、移動先の組織でどのようなイノベーションや新規事業の創出に貢献したのか。制度の利用実績が単なる「数」にとどまらず、「実際のビジネス価値」にどう変換されているのかというストーリーが開示されていない点は、今後の改善点として挙げられます。

④ 戦略、人事、従業員処遇体制の一貫性


【評価できる良い点】
経営戦略の実現に不可欠な「多様な人財の活躍」を後押しするため、職務内容やパフォーマンスと報酬を強く連動させる人事・処遇制度への変革を断行している点に強い一貫性が感じられます。具体的には、従来の年功的な要素を排し、職務内容や役割の大きさに応じてマーケット競争力のある報酬水準を設定する「ジョブ型人事制度」(※職務記述書に基づいて仕事の範囲と必要なスキルを明確にし、その職務に対して報酬を決定する人事システム)を2025年より導入し、すでに約420名が移行している事実が記載されています。また、アクチュアリーやファンドマネジャー等の高度な専門性を持つ人財に対して「スペシャリスト手当」を支給し、高いスキルを持つ人財を市場価値に見合った形で適切に処遇する仕組みが整っています。

さらに、従業員の企業価値向上への貢献実感を高めるため、全従業員を対象とした「従業員株式報酬制度(特別奨励金スキーム)」を導入し、国内グループ11社での加入率が9割を超えていることや、中核となる生涯設計デザイナーに対して、入社5年目まで固定給と成果給を組み合わせた安定的な給与制度を導入している点など、それぞれの職務特性や事業上の重要性に応じた柔軟かつ合理的な処遇体制が構築されています。

【今後の課題・改善点】
ジョブ型人事制度の導入や株式報酬といった制度の枠組みは明記されていますが、従業員のパフォーマンスをどのように評価するのかという「具体的な評価基準やプロセス」に関する開示が不足しています。高いパフォーマンスを発揮した人財に対してメリハリをつけて報いる「公平な不平等の実現」を掲げていますが、その前提となる評価において、どのような目標設定が行われ、プロセスと結果のバランスが現場でどう扱われているのか等、運用実態についての記述は見当たりません。処遇の前提となる「評価に対する納得感」をどう担保しているのかが開示されれば、人事戦略と従業員エンゲージメントの一貫性がさらに増すと考えられます。

4. まとめ

株式会社第一ライフグループは、100年以上の歴史を持つ国内生命保険のトップ企業でありながら、現状に甘んじることなくビジネスモデルの抜本的な変革に挑んでいる企業であることが、有価証券報告書から強く伝わってきます。

就職活動や転職活動を行う若手人材にとって、同社の最大の魅力は「圧倒的な成長機会と挑戦を後押しする制度の充実」にあります。海外事業の拡大や非保険・アセットマネジメント領域への進出が加速する中、「Myキャリア制度」や「グローバル・ジョブポスティング」、さらには若手管理職をグループ会社社長に抜擢する公募プロジェクトなど、年齢や年次に関係なく自ら手を挙げれば大きな舞台に挑戦できる環境が用意されています。また、ジョブ型人事制度や株式報酬制度の導入により、成果を出せば市場価値に見合った報酬を得られる点も、高いモチベーションに繋がるでしょう。

一方で直面しうる課題として、「待ちの姿勢ではキャリアが広がりにくいこと」が挙げられます。「会社主導から社員主体のキャリア形成」への移行が明言されている通り、自ら学び(Udemy等の自己啓発の活用)、自らの意思で手を挙げない限り、用意された成長機会を十分に享受することはできません。同社を志望する際は、面接等の場で「新制度のもとで現場の社員がどのように自律的にキャリアを描いているか」を直接質問し、実態を確認することが重要です。自らの手でキャリアを切り拓き、グローバルな舞台や新規事業で力試しをしたいと考える人材にとって、大きなポテンシャルを秘めた企業であると結論づけられます。