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#55 【情報・通信業】株式会社ジグザグ(340A)の人的資本開示|有価証券報告書(2026年5月期)

1. ひとこと総評

株式会社ジグザグの有価証券報告書から読み取れるのは、明確なビジョンとコア・バリューに支えられた「カルチャー主導型」の組織づくりです。「世界中のワクワクを当たり前に」というミッションのもと、多国籍な人材を積極的に受け入れ、国境を越えたリモートワークを許可するなど、越境EC事業の特性と働き方の制度が極めて高い次元で連動している点はコンサルタントの視点からも素晴らしい強みと言えます。

一方で、人的資本に関する定量的な数値目標やデータ(多様性に関する指標や育成の実績など)が開示されておらず、またコア・バリューがどのように個人の人事評価や給与体系に直結しているのかという具体的な制度設計の詳細も見当たりません。ビジョンやカルチャーの魅力は十分に伝わるものの、データに基づく客観性や処遇の具体性という面で「今後の大きな伸びしろ」を残しているのが現状の評価となります。

2. 人的資本開示 4つの評価ポイント概要

以下の4つの評価ポイントについて、倉庫管理人独自の視点で評価(◎, ◯, △, ×、※情報不足の場合は「-」)を行いました。

評価ポイント 評価 一言コメント
① 経営戦略との連動性 越境ECの事業特性と求める人物像・働き方の制度が極めて高いレベルで的確にリンクしています。
② 開示データの数値と変化 × 人的資本に関する具体的な数値目標や実績データの開示は一切見当たりません。
③ 一貫したストーリー性 市場環境の変化と多国籍人材の必要性が、論理的かつ説得力のあるストーリーで語られています。
④ 戦略、人事、従業員処遇体制の一貫性 基本方針は存在しますが、評価制度など処遇の具体的な仕組みの記載が不足しています。

3. 評価ポイントの深掘り分析

各項目について、「評価できる良い点」と「今後の課題・改善点」の双方の視点を取り入れ詳細に分析します。

① 経営戦略との連動性

【評価できる良い点】
同社の人的資本開示において最も高く評価できるのは、経営戦略と人材戦略・労働環境が非常に明確かつ有機的に連動している点です。同社は「世界中の欲しいに応える、世界中に想いも届ける」という越境EC(国境を越えた電子商取引)プラットフォーム事業を展開しています。このグローバルな事業を推進する上で、「境界(ボーダー)を超える」「変化を一緒に楽しむ」など5つのコア・バリュー(企業が大切にする共通の価値観)を定めていることは、求める人物像が事業特性と完全に一致していることを示しています。

さらに特筆すべきは、多国籍の社員によるグローバルな視点を活かすために、日本国外でのリモートワークを制度として認めている点です。就活生の皆さんにとって、海外でのリモートワークは単なる「自由な働き方」として魅力的に映るかもしれませんが、同社の有価証券報告書には「社員が現地の文化や慣習に触れ、顧客や市場理解を深めることで、組織全体の競争力を向上させている」と明確に位置付けられています。つまり、柔軟な働き方が単なる福利厚生にとどまらず、海外カスタマーの購買行動やニーズを理解するという「事業成長のためのダイレクトな打ち手」として機能しているのです。経営陣のビジョンが実際の働き方という制度にまで落とし込まれている点は、コンサルタントの視点から見ても非常に優れています。

【今後の課題・改善点(伸びしろ)】
一方で、人材戦略を推進するための具体的な施策の詳細については開示が不足しています。例えば、「自己学習への支援制度や社内勉強会を通じて社員の成長を支援している」との記載はありますが、それが具体的にどのようなプログラム名で行われているのか、多国籍な人材を育成するためにどのようなステップが用意されているのか等に関する具体的な記述は見当たりません。戦略の方向性が素晴らしいだけに、それを実現・実行するための具体的な研修制度や人材開発プログラムの開示が今後の課題と言えるでしょう。

② 開示データの数値と変化

【評価できる良い点】
コンサルタントの視点から事実のみを客観的に評価すると、本項目において「評価できる良い点(強み)」として挙げられる定量的な要素は、残念ながら今回の有価証券報告書の記載からは見出すことができませんでした。これは同社を否定しているわけではなく、「データに基づく客観的な開示」という観点においては、まだ発展途上のフェーズにあるという事実を如実に示しています。

【今後の課題・改善点(伸びしろ)】
同社の開示資料には、人的資本に関する指標及び目標について「現在の人的資本規模に対して特定の数値的目標を採用するのが困難であるため、現時点では具体的な目標数値等は定めておりません」と明記されています。経営上の目標として「月間Activeショップ数(1,335ショップ)」などのビジネスに関するKPI(重要業績評価指標)は明確に示されているものの、人的資本に関する具体的なデータ(例えば、多国籍人材の比率、男女別の管理職比率、離職率、一人当たりの研修投資額や学習時間など)は一切開示されていません。

就職活動や企業研究を行う若手人材にとって、「多国籍な社員が活躍している」「自己学習の支援がある」という定性的な情報(言葉での説明)だけでなく、それが客観的なデータ(数値)として裏付けられているかは、企業選びにおける重要な判断基準となります。技術革新のスピードが激しい越境EC市場において、「優秀な人材の確保と育成」を事業上の優先課題として認識しているからこそ、今後は自社の組織の健全性を示す具体的な数値データや、中長期的な組織目標を開示していくことが、同社の最大の伸びしろであると評価します。

③ 一貫したストーリー性

【評価できる良い点】
「なぜ今、そのような人材投資・人事戦略が必要なのか」という背景のストーリーラインは、非常に論理的で説得力があります。有価証券報告書の事業環境やリスクの項目を読み解くと、同社が直面している課題が鮮明に浮かび上がります。技術革新のスピードが極めて早く、新たなサービスや競合他社が次々と参入してくる越境EC市場においては、「迅速な開発、物流強化、カスタマーサポート」体制のスケール化が急務です。そのためには全方位において優秀な人材を確保し、国籍を問わず継続的に採用・育成・維持していくことが必須であると明確に位置づけられています。

この危機感と現状認識に基づき、多国籍な人材を受け入れるための福利厚生の充実や、採用広報活動の強化に取り組んでいるという流れは、経営課題から人事施策への一貫したストーリーとして高く評価できます。また、幅広いバリューチェーン(集客から購入・配送・カスタマーサポートまでの一連の価値創造プロセス)に跨る事業特性ゆえに、組織の垣根を越えた連携が不可欠であるとし、「OKR(Objective and Key Result:目標と主要成果を整理するフレームワーク)」を導入して組織を跨いだ目標設定を行っている点も、事業成長のスピードを加速させるための必然性のある打ち手として論理的につながっています。

【今後の課題・改善点(伸びしろ)】
ストーリーの骨格は非常に堅牢ですが、そのストーリーを補強するための「課題に対する具体的な進捗状況や成果」についての記述が見当たりません。例えば、採用広報を強化した結果としてどのような成果が得られているのか、多国籍人材の受け入れに向けた福利厚生とは具体的にどのような内容なのかといった、ストーリーの「肉付け」となる事実の開示がない点は、読者にとっては少し物足りなさを感じる部分かもしれません。また、事業拡大に伴う「内部管理体制の構築が追いつかないリスク」も認識されていることから、コーポレート部門の整備に向けた人材戦略のストーリーが今後追加されることが期待されます。

④ 戦略、人事、従業員処遇体制の一貫性

【評価できる良い点】
有価証券報告書から読み取れる事実として、販売費及び一般管理費における「給与手当」が前事業年度の約1億891万円から、当連結会計年度には約1億6,183万円へと大幅に増加しています。事業規模の拡大に伴い、人材への投資(採用や給与支給)が数字の面からもしっかりと行われている姿勢が読み取れます。また、従業員の処遇に関する基本方針として「業績や個人の貢献度・評価に基づき適正かつ成果に応じた処遇を行う」と明記されており、人材を企業価値創造の源泉と位置づける経営トップのスタンスが示されています。

【今後の課題・改善点(伸びしろ)】
本項目における最大の課題は、従業員に対する具体的な評価制度や給与・報酬体系の仕組みが一切開示されていない点です。同社は「挑戦した失敗と学びを称える」「責任感、主体性をもって動く」という非常に魅力的なコア・バリューを掲げていますが、その価値観が「具体的にどのように個人の人事評価に反映されるのか」「失敗を恐れず挑戦した結果が、どのように給与や昇進といった処遇に結びつくのか」という具体的な仕組みについての記述が見当たりません。インセンティブ制度の有無や、評価基準の透明性に関する具体的な開示がないことは、明確な「情報の不足」です。

なお、役員報酬についても「当事業年度における当社の役員報酬は固定報酬のみであり、業績連動報酬はありません」と明記されており、次期からようやく持続的な企業価値向上を目的とした「譲渡制限付株式報酬制度」の導入が予定されているという段階です。役員レベルの報酬制度が現在まさにアップデートの過渡期にある事実を踏まえると、従業員の評価・処遇制度についても、経営戦略に基づいた具体的な仕組みづくりが今後の重要な課題となっていくと考えられます。

4. まとめ

今回の有価証券報告書から浮かび上がる株式会社ジグザグは、「世界中のワクワクを当たり前に」というミッションを体現するために、多様性と柔軟性を最大の武器として成長を続ける非常に魅力的な企業です。特に、国境を越えた越境ECビジネスを成功させるために、社員自らが日本国外でリモートワークを行い、現地の文化や市場を肌で学ぶことを推奨している点は、他の企業にはない圧倒的な成長機会と言えます。グローバルな視点を持ち、自律的に挑戦したい就活生や若手人材にとっては、裁量を持って活躍できるエキサイティングな環境が用意されていると読み取れます。

一方で、企業研究を行う上では「データや人事制度の実態が見えにくい」という点に注意が必要です。人的資本に関する客観的な数値目標が開示されておらず、評価制度や処遇の具体的な仕組みに関する記載もないため、入社後のキャリアパスに対する不安を感じる可能性があります。したがって、この企業に関心を持った皆さんは、面接やOB・OG訪問などの機会を活用し、「コア・バリューである『挑戦した失敗』は具体的にどのように評価・賞賛されるのか」「多国籍なチームにおける具体的な育成ステップはどうなっているのか」といった、開示資料に書かれていない事実を自ら積極的に質問し、深掘りすることをお勧めします。圧倒的な事業ポテンシャルを持つ企業だからこそ、自らの目で「組織の実態」を確かめる姿勢が重要です。