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#377 【化学】ZACROS株式会社(7917)の人的資本開示|有価証券報告書(2026年3月期)

1. ひとこと総評

2024年10月に創業110周年を機に社名変更を行い、新たなスタートを切ったZACROS株式会社。同社は「つつみ、守る」技術をコアとし、ウェルネス、環境ソリューション、情報電子、産業インフラという幅広い領域でパッケージやソリューションを提供する化学・素材メーカーです。

有価証券報告書の人的資本開示を読み解くと、同社が従業員一人ひとりを「新たな価値を創造する大切な人財(財産)」と位置づけ、本気で組織の変革に取り組んでいる姿が浮かび上がります。特に評価できるポテンシャルは、多様な人材の活躍を推進するための具体的なKPI(重要業績評価指標)が設定され、男性育休取得率の大幅な向上など、働きやすさの改善が明確な数値として表れている点です。一方で、「年齢にとらわれない早期マネジメント任用」などの優れた方針を掲げているものの、それを実現するための現場のリアルな評価制度や一般従業員の処遇決定プロセスの詳細については開示が不足しており、この点が今後の伸びしろ(課題)と言えます。就活生や若手人材にとっては、明確なビジョンのもとで働きがいと働きやすさの向上がデータで裏付けられた、成長環境として魅力的な企業だと評価できます。

2. 人的資本開示 4つの評価ポイント概要

以下の4つの評価ポイントについて、倉庫管理人独自の視点で評価(◎, ◯, △, ×、※情報不足の場合は「-」)を行いました。

評価ポイント 評価 一言コメント
① 経営戦略との連動性 「ソリューション創造」等の事業変革目標と、求める人材・育成方針が極めて論理的に結びついている。
② 開示データの数値と変化 男性育休取得率やエンゲージメント等のKPI推移が豊富。一方で数値改善の具体策に関する開示は不足。
③ 一貫したストーリー性 人材投資が革新的な製品創出に繋がる価値創造ストーリーが明確。中途採用やシニア活躍の記述は見当たらない。
④ 戦略、人事、従業員処遇体制の一貫性 経営層の株式報酬制度は整備されているが、一般従業員の具体的な評価制度や処遇決定プロセスの詳細が開示されていない。

3. 評価ポイントの深掘り分析

各項目について、【評価できる良い点】と【今後の課題・改善点】をセクションごとに分けて詳細に分析します。

① 経営戦略との連動性


【評価できる良い点】
ZACROS株式会社の人的資本開示における最大の強みは、中長期経営計画で目指す事業の方向性と、それを実現するための「人材の要件・育成方針」が極めて明確にリンクしている点です。
同社は今後の持続的な企業価値向上のために、「ソリューション創造」「カスタムものづくり」「グローバル展開」という3つの柱を牽引する人材が必要不可欠であると定義しています。単に「優秀な人材が欲しい」と曖昧に表現するのではなく、顧客の潜在的な「困り事」を起点として新たな事業を提案できる人材や、グローバルマインドを持つ人材など、自社のビジネスモデルの進化に直結する具体的な人物像を描いています。
この戦略を実現するための施策として、多角的な視野を養うジョブローテーション(従業員の能力開発を目的とした計画的な配置転換)や、環境変化に迅速に対応するための機動的な人材配置、階層に応じた次世代リーダー育成プログラムなどを打ち出しています。事業の変革という経営側のニーズに対して、どのような人事施策を講じるべきかが論理的に整理されており、経営戦略と人的資本戦略の高度な連動性が事実として読み取れます。

【今後の課題・改善点】
事業方針と求める人物像の連動性は高いものの、それらを現場レベルでどのように実行・獲得していくのかについての具体的な記述が見当たりません。
たとえば、「ソリューション創造」を牽引するための専門知識とは具体的にどのようなスキルセットを指すのか、また「DXによる業務効率化」の記述はあるものの、それを推進するためのIT・デジタル人材の採用目標や、既存社員に対する具体的なリスキリング(新しい業務や技術に対応するためのスキルの再習得)の研修プログラム名などは開示されていません。戦略を支える具体的なスキル要件や研修内容の詳細が開示されていない点は、今後の情報の伸びしろと言えます。

② 開示データの数値と変化


【評価できる良い点】
マテリアリティ(企業が優先的に取り組むべき重要課題)として「多彩な人財の活躍と育成」を設定し、多岐にわたるKPIの過去の実績(2022年度〜2025年度)と、2030年度の中長期的な目標値を一覧で明示している点が非常に優れています。
特筆すべきは、エンゲージメント(従業員が会社の方針に共感し、自発的に貢献しようとする意欲)を重要な経営指標として年1回の調査で測定し、「2025年度実績 3.25/5.00」から「2030年度目標 3.80/5.00」へと引き上げる目標を包み隠さず定量開示している点です。
また、就活生が特に注目する「男性育休取得率」は、2022年度の26.3%から2025年度には67.7%へと飛躍的に上昇しており、2030年度の目標85.0%に向けて着実に進捗している事実が確認できます。「有休取得率」の向上や「平均残業時間(22.1時間/月)」の抑制など、安全安心な職場づくりに向けた成果が言葉だけでなく明確な数値として実績に表れている点は、企業研究を行う上で大きな安心材料となります。

【今後の課題・改善点】
豊富な定量データが開示されている一方で、開示されている「労働者の男女の賃金差異(全労働者で69.5%)」については、「管理職層における女性労働者の割合が低いこと」や「有期労働者においてこの傾向が強く出ていること」が要因として説明されていますが、その格差を埋めるための具体的なアクションプランや中間目標値についての記載が不足しています。
また、従業員エンゲージメントスコアを2030年度目標の3.80へ引き上げるために、現場レベルでどのような具体的な施策(コミュニケーションの改善策や職場環境の向上策など)が行われているのかについての記述も見当たりません。数値を羅列・測定する段階から一歩踏み込み、改善に向けた具体的なプロセスの開示が待たれます。

③ 一貫したストーリー性


【評価できる良い点】
ZACROS株式会社の開示には、「従業員一人ひとりを新たな価値を創造する大切な人財(財産)と位置づけ、個人の成長を支援することがモチベーション向上を生み、それが革新的な製品・サービスの創出に繋がり、最終的に社会課題の解決と企業の競争力強化へと繋がる」という価値創造のストーリーが一貫して美しく語られています。
「つつみ、守る」という創業以来の技術を進化させ、事業を通じて環境負荷の低減や人々の健康に貢献するという同社のビジョンを達成するためには、従業員がリスクを恐れずに挑戦できる環境が必要です。そのために、心身の健康維持や対話の促進、そして多様な人材が長く活躍できる職場風土の醸成を行うという論理展開は非常に説得力があります。人材への投資がどのように企業の利益や社会貢献に結びつくのか、明確な思想を持って人的資本経営を推進している姿勢が高く評価できます。

【今後の課題・改善点】
若手や次世代リーダーの育成、および多様性の推進に関する大きなストーリーは明確ですが、「外国籍・キャリア入社社員の活躍」については基本方針での言及にとどまり、実際に中途採用者がどのように組織へオンボーディング(組織に定着し活躍できるように支援するプロセス)し、既存社員と融合して価値を発揮していくのかという具体的なストーリーが見えません。
また、シニア人材の活用や、ベテラン層から若手への技術承継など、年齢層の異なる多様な人材がどのように連携して「カスタムものづくり」を支えていくのかといった、組織全体の多角的なストーリー展開については具体的な記述が見当たらず、今後の開示の伸びしろと言えます。

④ 戦略、人事、従業員処遇体制の一貫性


【評価できる良い点】
経営陣の処遇に関しては、取締役向けのインセンティブとして「譲渡制限付株式報酬」などの非金銭報酬が導入されており、経営層が株主と価値を共有し、中長期的な企業価値向上に強くコミットする仕組みが整備されていることが確認できます。
一般従業員についても、「発揮された能力と成果を公正に評価し、適正な処遇に反映させることを基本方針としている」「採用・評価・登用等に関し、性別や国籍、年齢等の属性に関わらず、個人の成果や成長に基づいた処遇を行っている」と明記されています。経営戦略に沿った「年齢にとらわれない早期マネジメント登用」を推進し、挑戦と成果を称え合う組織風土の醸成を目指すという、人事方針の根幹がしっかりと掲げられている点は評価できます。

【今後の課題・改善点】
「能力や成果に基づく適正な処遇を行う」という基本方針や宣言は明記されているものの、従業員の日々の業務成果や能力向上が、具体的にどのような評価制度や基準で測定され、昇給・賞与・昇進にどう反映されるのかという「人事評価・処遇制度の詳細な仕組み」についての具体的な記述が見当たりません。
経営戦略で掲げる「ソリューション創造」に向けた挑戦や、潜在的な課題解決への貢献が、現場でどのようなインセンティブとして従業員に還元されるのかが開示されていないため、掲げられた理念と実際の現場の処遇体制との一貫性が読み取りづらい点が大きな課題です。

4. まとめ

ZACROS株式会社の有価証券報告書から読み取れるのは、「つつみ、守る」という創業110年の伝統ある技術を礎にしながらも、次世代のソリューション創造企業へと大胆な構造変革に挑んでいるダイナミックな姿です。就活生や若手人材の視点から企業研究を行う際、男性育休取得率の大幅な改善(67.7%)や残業時間の抑制(月平均22.1時間)、そして高い有休取得率など、働きやすい環境づくりが具体的な数値として実績に表れている点は非常に魅力的です。また、「早期マネジメント任用」や「ジョブローテーション」による次世代リーダー育成など、若手から挑戦できる環境と成長支援の意思が明確に打ち出されていることも大きなポテンシャルと言えます。

一方で、現場の最前線で働く一般従業員がどのような基準で評価され、努力や新しい挑戦がどのように給与や昇進に結びつくのか(具体的な評価・処遇制度のメカニズム)については、公開された文書情報だけでは見えにくい部分があります。同社への就職や転職を検討する際は、面接や社員訪問の場を積極的に活用し、「新しいアイデアや失敗を恐れない挑戦は、現場でどのように評価されるのか」「デジタル技術や新しい専門知識を学ぶための具体的な研修制度にはどのようなものがあるか」といった、開示されていない伸びしろ部分を自ら質問し、確認することが、企業とのミスマッチを防ぎ企業研究を深める上で極めて重要です。