1. ひとこと総評
トモニホールディングス株式会社の人的資本開示は、広域金融グループとしてのパーパス(存在意義)と人材戦略がしっかりと結びついた、堅実かつ論理的な内容となっています。
特に評価できるのは、第6次経営計画において「人財戦略」を5つの基本戦略の一つに明確に位置づけ、「人的資本経営(人材を資本と捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげる経営)」の実現を宣言している点です。また、子会社である徳島大正銀行や香川銀行における、従業員の働き方(メンバーシップ型・ジョブ型等)に応じた細やかな評価・給与体系が具体的に開示されており、現場レベルでの実務的な落とし込みがなされている点も素晴らしいポイントです。
一方で、多様な働き方や成果に応じた処遇の「枠組み」は詳細に開示されているものの、「専門性の高い人財の育成」を実現するための具体的な社内研修プログラムや、「働きがいのある職場環境」を構築するための具体的な施策(風土改革など)の記述が見当たりません。制度を運用し人材の成長をサポートする「ソフト面(具体的な育成・支援プロセス)」の開示をさらに充実させることが、今後の大きなポテンシャル(伸びしろ)となっています。
2. 人的資本開示 4つの評価ポイント概要
以下の4つの評価ポイントについて、倉庫管理人独自の視点で評価(◎, ◯, △, ×、※情報不足の場合は「-」)を行いました。
| 評価ポイント |
評価 |
一言コメント |
| ① 経営戦略との連動性 |
◯ |
第6次経営計画において「人的資本経営の実現、多様性と専門性の両立」を掲げ、事業戦略と明確に連動。 |
| ② 開示データの数値と変化 |
◯ |
男性の育休取得率100%超などの実績は明確だが、人材育成やエンゲージメントの独自KPIは開示されていない。 |
| ③ 一貫したストーリー性 |
◯ |
パーパスやマテリアリティと人材戦略の繋がりは論理的だが、現場の多様性推進策の具体性に欠ける。 |
| ④ 戦略、人事、従業員処遇体制の一貫性 |
◎ |
銀行子会社ごとに目標面接制度や多面評価などの評価制度が詳細に規定され、成果と処遇が強くリンク。 |
3. 評価ポイントの深掘り分析
各項目について、【評価できる良い点】と【今後の課題・改善点】をセクションごとに分けて詳細に分析します。
① 経営戦略との連動性
【評価できる良い点】
令和8年(2026年)4月からスタートした「第6次経営計画」において、「サステナビリティ戦略」「営業戦略」「オペレーション戦略」「ガバナンス戦略」と並び、「人財戦略」を5つの基本戦略の一つとして明確に位置づけている点が非常に高く評価できます。同社は、持続可能な営業基盤の構築や高付加価値サービスへのシフトを営業戦略として掲げていますが、それを実現する基盤として「経営戦略と連動した経営人財、専門性の高い人財の育成」を方向性として打ち出しており、経営と人事のベクトルが見事に一致しています。
さらに、銀行子会社(徳島大正銀行)において、行員を従来の「メンバーシップ型行員(職務・勤務地等が限定されない行員)」と「ジョブ型行員(職務の内容を明確に定義し、職務・勤務地等が限定される行員)」に区分し、多様な雇用形態を導入している事実も記載されています。これは、専門性の高い人材を確保・活用するための人事制度改革が実際に進んでいる証拠であり、経営戦略と人事施策の具体的な連動が読み取れる優れたポイントです。
【今後の課題・改善点】
戦略の方向性として「経営戦略と連動した経営人財、専門性の高い人財の育成」を掲げてはいるものの、それを現場でどのように実現するのかを示す「具体的な研修プログラム」や「キャリア開発支援の仕組み」に関する記述が見当たりません。例えば、地域企業へのコンサルティング能力を高めるための専門研修や、将来の経営幹部を育成するための選抜プログラム(サクセッションプラン等)といった具体的な育成施策の開示がないため、戦略をどのように実行に移すのかが読み取れない点が、今後の伸びしろとなっています。
② 開示データの数値と変化
【評価できる良い点】
法定開示項目を中心に、「女性管理職比率」や「男性の育児休業取得率」について、明確な数値目標と実績値がセットで開示されている点は高く評価できます。特に注目すべきは、「男性の育児休業取得率」の令和7年度(2025年度)実績が「103.7%」と、目標である100%を上回る成果を達成している事実です。これは、同社が掲げる「働きやすい職場環境の整備」が単なる掛け声に終わらず、現場の行動変容を伴って確実な成果に結びついている強力なエビデンスです。
また、人的資本と並ぶサステナビリティの重要指標である「CO2排出量削減率」についても、令和12年度(2030年度)の△50%目標に対し、令和7年度時点で既に△45.8%の削減実績を上げていることが開示されており、定量的なKPI(重要業績評価指標)のマネジメントが着実に機能していることが窺えます。
【今後の課題・改善点】
ダイバーシティや環境に関するデータは充実している一方で、「人的資本(人材の価値)」そのものを測る独自の定量データの開示が見当たりません。入力データ内に、人事考課において「モチベーションクラウドの結果を踏まえて評価する」との記載があり、従業員のエンゲージメント(会社に対する自発的な貢献意欲や愛着度)を数値化して測定していることは明白ですが、そのスコアの全社的な実績値や今後の目標値に関する記載がありません。また、専門人材の育成数や、一人当たりの研修時間・研修投資額といったデータも開示されておらず、人的資本への投資効果を客観的に測る情報が不足している点が課題と言えます。
③ 一貫したストーリー性
【評価できる良い点】
「社員一人ひとりの成長を組織の成長につなげ、お客さまの成長を地域の成長につなげる」という同社のパーパス(存在意義)を起点に、なぜ人材投資を行うのかというストーリーが論理的に語られています。特筆すべきは、当社が優先的に取り組むべきマテリアリティ(重要課題)の一つに「ワークライフ・バランスへの取組みと人財の育成・確保」を設定し、その背景にある「生産年齢人口減少による採用環境の悪化」や「社会環境変化への対応遅れによるエンゲージメントの低下」というリスクを率直に直視している点です。組織が抱えるリスクを隠さずに提示し、だからこそ「多様な人材の活躍推進」や「パーパス実現に向けたインセンティブの強化」を通じて、優秀な人材の確保と定着化(機会)に繋げていくという、非常に説得力のある一貫したストーリーが構築されています。
【今後の課題・改善点】
パーパスからマテリアリティの特定、そして「人材の多様性が組織の競争力を高める」という方針に至るまでのストーリー展開は論理的ですが、それを現場の風土として定着させるための「具体的な社内施策」の記述が見当たりません。「実践的かつ効果的な学びの場を提供する」「多様性の確保を含むダイバーシティを積極的に推進する」という理念は語られていますが、例えば、異なる価値観を受け入れるための社内意識改革(アンコンシャス・バイアス研修など)や、仕事と育児・介護を両立するための柔軟な働き方支援制度(テレワークやフレックスタイム制など)の具体的な取り組み内容が開示されておらず、ストーリーを現場の行動に落とし込むプロセスの説明が伸びしろとなっています。
④ 戦略、人事、従業員処遇体制の一貫性
【評価できる良い点】
経営戦略に基づく人事戦略が、子会社ごとの詳細な人事評価・給与制度にまで一貫して落とし込まれており、本開示の中で最も高く評価できるポイントです。例えば、徳島大正銀行では、「目標面接制度」による成果目標の達成状況の確認に加え、「モチベーションクラウド」の結果を踏まえたマネジメント力の多面評価を取り入れている事実が明記されています。これは、単なる数字の達成だけでなく、組織のエンゲージメント向上に貢献したプロセスも評価する先進的な仕組みです(いわゆるMBO:目標管理制度の進化形)。
さらに、給与体系においても、年俸職には業績達成度に応じた「業績年俸」、本給職には営業成績を勘案した「賞与」を支給するなど、成果と処遇のリンクが明確です。また、香川銀行では「加算給(55歳以上)」という独自の仕組みを設け、シニア層の処遇とモチベーション維持に配慮している点も、多様な人材の活躍推進という戦略と見事に一貫しています。役員向けにも、純利益やコア業務純益といった指標に連動する「業績連動報酬等」や「譲渡制限付株式報酬」が導入されており、企業価値向上に向けたベクトルが全社で揃っています。
【今後の課題・改善点】
役員に対する株式報酬制度や、従業員の業績連動型の給与・賞与の仕組みは詳細に開示されていますが、従業員に対して会社の中長期的な成長(株価の上昇など)を意識させるための「従業員向けの株式インセンティブ制度」に関する具体的な記述が不足しています。入力データ内の取締役会の報告事項に「従業員持株会向け譲渡制限付株式報酬インセンティブ制度の導入検討開始」という記載があり、前向きな検討が進んでいる事実は窺えますが、現時点で従業員が中長期的な企業価値向上によるメリットを直接享受できる仕組みがどの程度実装されているのかが明確ではありません。この点が具体的に開示されれば、パーパス実現に向けた処遇の一貫性がさらに強固なものになるでしょう。
4. まとめ
トモニホールディングス株式会社の人的資本開示は、広域金融グループとして「地域とお客さまとともに成長する」という確固たるパーパスを軸に、リスクを直視しながら人的資本経営を推進しようとする誠実な姿勢が伝わる内容です。特に、銀行子会社ごとの人事考課や給与体系が非常に細かく透明性をもって開示されており、ジョブ型雇用の導入や多面評価、モチベーションクラウドの活用など、伝統的な金融機関の枠を超えて新しい人事制度に積極的に挑戦している点が就活生や若手人材にとって大きな魅力となります。
同社に入社した場合、「目標面接制度」などを通じて自身の成果やマネジメント力が多面的かつ正当に評価される環境があり、実力を発揮しやすい土壌が整っています。一方で、開示資料上では若手人材の具体的な「育成プログラム」や「キャリア支援の仕組み」が見えにくいため、企業研究や面接の場では、「入社後にどのような研修が用意され、専門性をどのように高めていけるのか」「自身のキャリアビジョンを上司と共有し、支援してもらえる仕組み(1on1ミーティングなど)があるか」といった、現場での具体的な成長サポート体制について質問することで、入社後のミスマッチを防ぎ、より深い企業理解に繋がるでしょう。