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#287 【その他製品】株式会社バンダイナムコホールディングス(7832)の人的資本開示|有価証券報告書(2026年3月期)

1. ひとこと総評

株式会社バンダイナムコホールディングスの人的資本開示からは、「パーパス」を基軸に多様な人材の活躍を推進し、IP(知的財産)軸戦略を強力に進めようとする確固たる意志が読み取れます。「同魂異才」というキーワードのもと、従業員の多様性を重んじる姿勢は明確であり、エンゲージメントサーベイによる課題抽出から、具体的な就業環境の整備への落とし込みは見事です。さらに、経営陣の報酬評価に「従業員エンゲージメント」の指標を組み込むなど、経営と人事の連動性における本気度が高く評価できます。
一方で、データ活用などの新戦略を牽引するデジタル人材の育成方針や、具体的な人事評価基準、グループ全体の中長期的な数値目標(KPI)の開示が不足している点に課題を残しています。就職・転職を考える若手人材にとっては、多様性を尊重する柔軟な働き方ができる魅力的な環境である反面、自身のスキルがどのように評価され、キャリアを築いていけるのかについては、面接等の場で積極的に確認する必要があります。

2. 人的資本開示 4つの評価ポイント概要

以下の4つの評価ポイントについて、倉庫管理人独自の視点で評価(◎, ◯, △, ×、※情報不足の場合は「-」)を行いました。

評価ポイント 評価 一言コメント
① 経営戦略との連動性 パーパス実現に向けた「同魂異才」の人材像が、事業のグローバル戦略と的確にリンクしています。
② 開示データの数値と変化 詳細な実績数値の開示は豊富ですが、グループ全体の統一的な目標数値の記載が不足しています。
③ 一貫したストーリー性 組織課題の可視化から、多様な働き方を支援する具体的な制度構築までの一貫した論理展開が秀逸です。
④ 戦略、人事、従業員処遇体制の一貫性 役員報酬とエンゲージメントの連動は評価できますが、従業員の人事評価プロセスの開示がありません。

3. 評価ポイントの深掘り分析

各項目について、【評価できる良い点】と【今後の課題・改善点】をセクションごとに分けて詳細に分析します。

① 経営戦略との連動性


【評価できる良い点】
同社は、経営戦略の最上位概念として「パーパス“Fun for All into the Future”」を掲げ、中長期ビジョン「Connect with Fans」の実現に向けた事業戦略を展開しています。この戦略と連動する形で、人的資本の基本方針において「同魂異才」の企業集団を目指すことを明記しています。「同魂異才」とは、同じ志(パーパス)を持ちながらも、様々な才能、個性、価値観を持つ多様な人材が活躍するという意味であり、変化の激しいエンターテインメント業界やグローバル市場での競争に打ち勝つための人材像として非常に的確です。
具体的には、グローバルで「IP(知的財産)軸戦略」を推進するため、事業や地域をまたいだ「グループ合同研修」やローテーション人事を積極的に行い、グループ全体を牽引する人材の育成に注力しています。事業特性に応じた多様性を確保しつつ、グループの一体感を醸成する方針は、多角的な事業を展開する同社の経営戦略と人事戦略が見事にリンクしている事実として高く評価できます。

【今後の課題・改善点】
一方で、同社の中期計画には「データユニバース構想」によるデータの本格活用や、新技術・新たなプラットフォームへの対応を通じた「みがきふかめる」という戦略が掲げられていますが、これらのデジタル化や技術進化を牽引する専門人材の確保や、既存社員に対する新しい技術スキルを習得させる教育方針に関する具体的な記述が見当たりません。経営戦略上、データ活用や新技術への対応が重要課題として挙げられている以上、それに対応する具体的な人材戦略の開示がない点は、経営と人事の連動性における今後の課題(伸びしろ)と言えます。

② 開示データの数値と変化


【評価できる良い点】
人的資本に関する実績データが、過去3年間(2024年3月期〜2026年3月期)の推移として詳細に開示されている点は非常に高く評価できます。正社員数の増加(4,299名から4,711名)や、中途・新卒採用者の内訳、女性管理職比率の着実な上昇(22.8%から25.0%)、健康診断受診率(99.8%)、年次有給休暇取得率(74.1%から77.4%への上昇)など、多様性の確保と働きやすい環境整備の実態が客観的な数値で明確に示されています。
特に注目すべきは、「男性従業員の育児休業取得率」について「前年度比5%増」という明確な目標を設定した上で、実績として89.1%(2026年3月期)という高い数値を達成し、開示している点です。法定開示項目にとどまらず、自社の課題に対する進捗を定量的に追跡していることは、企業の透明性を示す強力な証拠となります。

【今後の課題・改善点】
詳細な実績数値が開示されている一方で、グループ全体の統一的な「目標数値(KPI)」の開示が不足しています。有価証券報告書内にも「現時点ではグループ全体として統一的な目標は設定しておりませんが、(中略)適した目標の設定に向けて検討を進めております」と明記されており、女性管理職比率や有給休暇取得率に関して、中長期的に目指す具体的なKPIが示されていません。現在の状況が詳細に可視化されているだけに、未来の到達点(目標値)が記載されていないことは、人事施策のゴールを図る上での明確な伸びしろとなります。

③ 一貫したストーリー性


【評価できる良い点】
同社の人的資本開示は、企業が優先的に取り組むべき重要課題である「マテリアリティ」を起点に、課題の特定から具体的な人事施策に至るまで非常に論理的なストーリーが構築されています。「尊重しあえる社会の実現」というマテリアリティに対し、従業員の会社への愛着や貢献意欲を測る「エンゲージメントサーベイ」を国内外のグループ全社で実施し、組織課題を可視化していると記載されています。
さらに、そのサーベイ結果に基づいて、同性パートナー等を対象とした「パートナーシップ制度」の導入、子の不登校や不妊治療、家族の介護等に対応できる「ライフサポート制度」、従業員の自律的な資産形成を支援する「確定拠出年金制度(DC)」への統一など、多様な背景を持つ従業員が安心して働ける環境整備へと一貫して落とし込まれています。「なぜその施策を行うのか」がエンゲージメント向上や多様性の尊重という明確な理由とともに語られており、求職者にとって企業の姿勢が非常に理解しやすい構成となっています。

【今後の課題・改善点】
ストーリーのつながりが見えにくい点として、新設されたアライアンス組織「CW360」と人材育成の連動性が挙げられます。「外部パートナーとのアライアンス強化によるプロジェクトや協業を、人材活躍の新たな場としても活用し、次世代経営人材の育成の機会につなげていく」という方針は示されていますが、具体的にどのような人材がアサインされ、外部との協業を通じてどのような経営スキルを獲得し、それが社内にどのように還元されるのかというプロセスやストーリーの具体的な記述が見当たりません。この点が補完されれば、より説得力のある開示となります。

④ 戦略、人事、従業員処遇体制の一貫性


【評価できる良い点】
経営戦略と従業員の処遇、さらには経営層の報酬制度に至るまでの連動性が優れています。特筆すべきは、取締役の業績連動賞与の評価指標に、営業利益やEPS(1株当たり純利益)といった財務目標だけでなく「サステナビリティ評価」として、温室効果ガス排出量や「従業員エンゲージメント等」の指標が組み込まれている事実です。経営トップの報酬が従業員の働きがい(エンゲージメント)と直接連動する仕組みは、会社全体で組織風土の改善に本気で取り組む姿勢の表れと言えます。
また、従業員の処遇に関しても、「一人ひとりの成果、発揮した能力、担う役割と責任を適切に評価する制度を整備し、評価結果に基づき基本給の決定を行っている」ことや、「企業業績と連動した賞与制度」を導入していることが明記されており、従業員の挑戦や成長が企業の業績向上に繋がり、それが公正な還元に直結するという処遇体制の一貫性が確認できます。

【今後の課題・改善点】
従業員の処遇に関して「実力と経験により公平な評価を実施」しているとの記載はあるものの、具体的な「人事評価制度」の基準やプロセスについての開示が不足しています。どのような行動特性やスキル要件が評価されるのかといった詳細な記述が見当たりません。また、「1年目研修」から「次世代経営者研修」まで階層別の研修体系は示されていますが、評価結果がどのように昇進や日々のキャリア形成に反映されるのかというプロセスが不明確であるため、入社後のキャリアパスを具体的にイメージするための情報が開示されていない点は今後の課題です。

4. まとめ

就職活動中の大学生や若手人材が企業研究を行う視点から、株式会社バンダイナムコホールディングスを総括すると、同社は「多様性の尊重」と「エンゲージメント(働きがい)」を経営の重要課題と位置づけ、具体的な制度構築を力強く進めている優良企業と言えます。約90%に達する男性育休取得率の高さや、ライフイベント(介護・不妊治療など)に対応する休暇制度、資産形成を支える確定拠出年金制度など、生活基盤を担保しながら安心して長く働ける環境が整備されていることは、個人の大きな成長機会の土台となります。

一方で、実績データの開示は豊富ですが、中長期的な目標数値が設定途上であることや、個人の成果を測る具体的な人事評価のプロセスについての開示が少ない点には注意が必要です。同社への入社を目指す場合は、開示情報から読み取れる「挑戦を支援する風土」や「同魂異才」の理念に共感するだけでなく、選考プロセスを通じて「自らの役割や成果が具体的にどのように評価され、どのようなキャリアステップが用意されているのか」を直接確認することで、入社後のミスマッチを未然に防ぐことができるでしょう。