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#243 【食料品】日清オイリオグループ株式会社(2602)の人的資本開示|有価証券報告書(2026年3月期)

1. ひとこと総評

日清オイリオグループ株式会社の有価証券報告書から読み解く人的資本開示は、長期ビジョンと中期経営計画に基づく組織変革への強い意志が感じられる、非常に体系化された内容です。
同社は「ビジョン2030」において、「グローバルトップレベルの油脂ソリューション企業」への飛躍を掲げており、その実現に向けた新中期経営計画「Value UpX」の根幹に「人的資本」を据えています。特に評価できるのは、単なるスローガンに留まらず、経験者採用比率の大幅な引き上げ(9%から34%へ)や、「グローバル人材登録制度」の運用、「ジョブチャレンジ制度」の導入など、人材の多様化と自律的な成長を促す具体的なアクションが伴っている点です。
一方で、各種施策の目標となるKPI(重要業績評価指標)の数値開示や、一般従業員向けの評価・処遇制度の詳細な仕組みについては、開示が不足している領域も見受けられます。変革期にある同社において、若手から挑戦できる風土が整いつつあるというポテンシャルと、今後の人事制度の透明性向上という課題の両面を正しく理解することが、就職や転職に向けた企業研究において重要となります。

2. 人的資本開示 4つの評価ポイント概要

以下の4つの評価ポイントについて、倉庫管理人独自の視点で評価(◎, ◯, △, ×、※情報不足の場合は「-」)を行いました。

評価ポイント 評価 一言コメント
① 経営戦略との連動性 経営戦略の実現に向けて4つの人材マテリアリティが設定され、施策とのリンクが極めて明確です。
② 開示データの数値と変化 経験者採用比率やダイバーシティ指標など優れた開示がある一方、エンゲージメントスコア等の実績値の開示がありません。
③ 一貫したストーリー性 健康経営を土台とし、多様な人材の活躍からイノベーション創出へと至る論理展開が見事です。
④ 戦略、人事、従業員処遇体制の一貫性 役員や管理職層の制度は明確ですが、一般従業員向けの具体的な評価制度の記述が見当たりません。

3. 評価ポイントの深掘り分析

各項目について、【評価できる良い点】と【今後の課題・改善点】をセクションごとに分けて詳細に分析します。

① 経営戦略との連動性


【評価できる良い点】
同社は、経営戦略と人的資本の連動性を極めて論理的に構築しています。新中期経営計画「Value UpX」の実行に向けた成長戦略を支えるため、「強固でレジリエントな人材基盤の構築」という方針を打ち出し、4つの「人材マテリアリティ(重要課題)」を設定しています。
特に注目すべきは、事業のグローバル化や高度化に対応するための「強固な人材力の構築」です。「グローバル人材登録制度」を運用し、2025年度には登録者41名の中から4名をグローバル業務へ配置し、海外トレーニーを派遣するなど、グローバル戦略と人材育成が直結しています。また、経験者採用比率を2021年度の9%から2025年度には34%まで急拡大させており、外部の高度な専門知識を積極的に取り入れて事業ポートフォリオの変革を推進しようとする明確な意図が読み取れます。

【今後の課題・改善点】
戦略の方向性と施策の連動は明確であるものの、「現在どのようなスキルを持つ人材が何名不足しており、将来に向けてどのようにギャップを埋めていくのか」といった、定量的な人材ポートフォリオギャップに関する開示が見当たりません。デジタル人材やマーケティング人材など、重点的に配置すべき高度専門人材の具体的な獲得目標人数やスキル要件の定義が開示されていない点は、今後の情報開示における伸びしろと言えます。

② 開示データの数値と変化


【評価できる良い点】
具体的な施策に関する生きたデータが開示されており、企業の変革の熱量が伝わる内容となっています。前述の経験者採用比率の推移(9%→34%)に加え、新規ビジネス創出に向けた社内プロジェクトへの応募件数(67件)といったデータは、従業員の挑戦意欲が高まっている証左です。
また、人的資本の基盤となる「健康経営の推進」においては、睡眠改善アプリの利用人数(約200名)や、「健康経営優良法人2026(大規模法人部門)~ホワイト500~」などの外部機関による認定実績が開示されており、従業員の心身の健康に対する投資が着実に実を結んでいることが客観的に証明されています。さらに、「多様な人材の活躍」を示す指標として、女性管理職比率(2025年度実績8.0%、2030年度目標20%)や男性の育児休業取得率(95.0%)、男女の賃金差異(70.2%)といったダイバーシティ関連データが明確に数値で示されている点も、透明性の高さとして高く評価できます。

【今後の課題・改善点】
エンゲージメント(企業への愛着心や仕事への熱意)状態を定期的に調査し、アクションプランを策定している」という素晴らしい取り組みの記載がある一方で、肝心のエンゲージメントスコアの実績値や推移に関する具体的な数値が開示されていません。ダイバーシティ指標の開示が充実しているからこそ、従業員の組織に対する熱量や、組織の定着性・健全性を示す離職率などの指標も併せて開示されれば、各種施策の実効性をより多角的に測れる人的資本開示となるでしょう。

③ 一貫したストーリー性


【評価できる良い点】
同社の開示の強みは、「健康経営の推進」を全ての土台として位置づけ、その上に「多様な人材の活躍」を置き、最終的に「イノベーションを生み出す組織風土への進化」へと繋げるという、非常に説得力のあるストーリーが描かれている点です。
このストーリーを具現化するため、社内公募制度である「ジョブチャレンジ制度」のトライアル実施や、自己啓発を支援する「NLF(Nisshin Life Fund)制度」、そして中途入社者が早期に活躍できるよう支援するオンボーディング(組織への定着支援)施策など、自律的なキャリア形成を後押しする仕組みが網羅的に用意されています。個人の成長と働きがいが、組織のイノベーションへと結びつくロジックが見事に構築されています。

【今後の課題・改善点】
「現場力を盤石化して競争力を発揮している」と記載されている通り、製造や営業の最前線を担う人材は同社にとって不可欠な存在です。しかし、AIやIoT等の活用による作業効率化の記載はあるものの、現場を担う従業員に対する具体的なスキルアップ支援や、新たな技術や環境変化に対応するための学習機会の提供に関する具体的なストーリーの記述が見当たりません。イノベーション創出だけでなく、既存事業を支える現場人材の高度化に向けた道筋が明記されることが期待されます。

④ 戦略、人事、従業員処遇体制の一貫性


【評価できる良い点】
役員報酬において、財務目標だけでなく、中長期の企業価値向上を測るROIC(投下資本利益率:投じた資本に対する稼ぐ力を示す指標)や、ESG目標(Scope1,2におけるCO2排出量削減率)を業績連動報酬に組み込んでいる点は、サステナビリティ経営を推進する上で極めて優れた制度設計です。
さらに、この「経営的視点」と「中長期的な企業価値向上のインセンティブ」を高めるという思想を役員だけでなく管理職層にも広げ、従業員持株会制度を活用した株式報酬制度を導入している点は、戦略と人事処遇の一貫性を体現する素晴らしい取り組みと評価できます。賞与決定プロセスにおいて、「挑戦度」や「組織貢献度」を勘案する方針が明記されている点も、変革を促すメッセージとして機能しています。

【今後の課題・改善点】
従業員の報酬に関する基本方針として「各人の役割・職責、及び企業業績や個人の成果への貢献を公正に評価し、処遇に反映させる」との記載はありますが、一般従業員向けの評価制度の具体的な仕組み(目標達成度や挑戦プロセスがどのように評価テーブルに組み込まれ、基本給や賞与に反映されるのか)に関する記述は見当たりません。イノベーションや変革マインドを促す具体的な評価基準が開示されていない点は、処遇体制の透明性という観点で今後の改善点として挙げられます。

4. まとめ

日清オイリオグループ株式会社は、長年培ってきた「植物のチカラ®」を基盤としつつも、伝統的な食品メーカーの枠組みを超え、「グローバルトップレベルの油脂ソリューション企業」への大きな変革期を迎えています。有価証券報告書に示された人的資本開示からは、その変革を本気で成し遂げようとする経営陣の強い意志が読み取れます。
就職活動や転職活動を進める若手人材にとって、同社は非常に魅力的な選択肢となり得ます。経験者採用の積極的な拡大や、グローバル人材登録制度、ジョブチャレンジ制度など、年齢や入社年次に関わらず、自ら手を挙げて挑戦できる環境が急速に整備されつつあるからです。これは、受け身ではなく自律的にキャリアを築きたいと考える人材にとって、大きな成長機会を意味します。
一方で、一般従業員向けの評価基準や報酬との連動性など、制度のディテールについては未開示の部分も残されています。企業研究や面接の場においては、「自らが起こした挑戦やプロセスが、現場で具体的にどのように評価され、フィードバックされるのか」といったリアルな運用実態を確認することが、入社後のミスマッチを防ぎ、自身のポテンシャルを最大限に発揮するための重要なステップとなるでしょう。


※本記事は、対象企業の有価証券報告書(テキストデータ)に記載された事実のみに基づき、客観的な視点で分析・評価を行ったものです。