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#220 【建設業】南海辰村建設株式会社(1850)の人的資本開示|有価証券報告書(2026年3月期)

1. ひとこと総評

南海辰村建設株式会社の有価証券報告書から読み取れる第一印象は、建設業というビジネスの根幹が「人財」であるという強固な信念と、それに基づく実直な経営姿勢です。同社は「3カ年経営計画(2025~2027)」の中核に「人財力と組織力の向上」を据え、厳しい業界環境の中にあっても、従業員の確保と質の向上に正面から向き合っています。
特に、技術系若年社員向けの企業内学校「NTアカデミー」を拡充するなど、技術力という自社の競争優位性の源泉を磨く体制が明確に整備されており、就活生や若手人材にとって、着実に専門スキルを身につけられるポテンシャルの高い成長環境だと言えます。
一方で、多様性の推進やエンゲージメント(会社への愛着や自発的な貢献意欲)の向上を掲げ、女性管理職比率等の実績データは適切に開示されているものの、その現状数値を今後いかに改善していくかという「将来に向けた定量的なロードマップ(数値目標)」の提示には、まだ大きな伸びしろが残されています。

2. 人的資本開示 4つの評価ポイント概要

以下の4つの評価ポイントについて、倉庫管理人独自の視点で評価(◎, ◯, △, ×、※情報不足の場合は「-」)を行いました。

評価ポイント 評価 一言コメント
① 経営戦略との連動性 事業規模拡大と収益力向上という戦略に対し、人財の育成体制が的確にリンクしています。
② 開示データの数値と変化 資格保有率等の目標や多様性指標の実績値は開示されていますが、将来に向けた多様性の数値目標が設定されていません。
③ 一貫したストーリー性 建設業の根幹は人財であるという認識から、採用・育成・定着への施策が論理的に繋がっています。
④ 戦略、人事、従業員処遇体制の一貫性 基本給や手当の決定プロセスは明記されていますが、評価基準や賃上げの具体的な数値目標の記載がありません。

3. 評価ポイントの深掘り分析

各項目について、【評価できる良い点】と【今後の課題・改善点】をセクションごとに分けて詳細に分析します。

① 経営戦略との連動性


【評価できる良い点】
南海辰村建設の開示において経営戦略コンサルタントとして高く評価できるのは、「3カ年経営計画(2025~2027)」で掲げる「事業規模の拡大と利益創出力の強化」という事業戦略と、「人財の確保・育成」という人財戦略が、表裏一体のものとして極めて密接に連動している点です。建設技術者や技能労働者の減少と高齢化が進むという業界全体が抱えるシビアな経営環境を直視し、事業成長のためには「人財の量的確保と質の向上」が最優先課題であると明確に位置づけています。
その戦略を具現化する施策として、技術系若年社員向けの企業内学校「NTアカデミー」を、「テクニカルアカデミー(専門知識の習得)」と「ビジネスアカデミー(ビジネスパーソンとしての基本力向上)」の2つに再構築・拡充しています。単に「人を育てる」という抽象的なスローガンにとどまらず、事業に必要な専門スキルとヒューマンスキルを体系的に引き上げる仕組みを構築している点は、経営のビジョンと現場の教育方針が的確にリンクした優れた事例と言えます。

【今後の課題・改善点】
経営戦略と育成方針の連動性は全体として明確である一方、同社が具体的な施策として掲げている「DX(デジタルトランスフォーメーション:デジタル技術を用いた業務やビジネスモデルの変革)推進による生産性の向上」を牽引する中核人材、いわゆる「DX推進人材」の具体的な育成計画や、採用に向けた人物像の定義についての記述が見当たりません。「DX」という戦略的なキーワードが登場する以上、それに特化した人材をどのように社内で育成していくのか、あるいは外部から獲得していくのかという具体的な方針が開示されていない点は、戦略の実効性を担保する上での今後の伸びしろとして指摘できます。

② 開示データの数値と変化


【評価できる良い点】
組織課題の解決に向けた独自のKPI(重要業績評価指標)が設定され、その進捗が開示されている点は評価できます。具体的には、「人財の育成」の成果を測る客観的な指標として、「全従業員の資格保有率75%以上の達成(2025年度実績71.7%)」という明確な数値目標が設定されています。建設業において公的資格の保有は、技術力の証明であり企業の直接的な競争力(入札参加資格等)に直結するため、この指標設定の妥当性は非常に高いです。
また、「従業員エンゲージメントの向上」を図るための結果指標として、「離職率5%以下(過去5年平均実績5.4%)」を目標に掲げています。さらに、女性管理職比率(2.0%)や男性の育児休業取得率(22.2%)、男女間賃金格差(全労働者65.1%等)といった多様性に関する法定開示項目の実績数値もしっかりと明記されており、自社の現状を客観的なデータとして包み隠さず可視化している姿勢は高く評価できます。

【今後の課題・改善点】
一方で、情報開示の網羅性や目標設定という観点ではまだ伸びしろが残されています。テキスト内において「ダイバーシティ&インクルージョン(多様な人材を受け入れ、それぞれの個性を活かすこと)のさらなる浸透」を組織風土改革の戦略として掲げているものの、開示されているのは現状の実績値のみであり、将来に向けた具体的な数値目標の設定が見当たりません。現状の課題に対して今後どのようなロードマップを描いて数値を改善していくのかが示されると、戦略の説得力は格段に増すでしょう。
さらに、採用人数に関しても「直近3事業年度と過去3事業年度を比較して増加している」という定性的な表現にとどまり、具体的な採用目標数や実績人数の開示がありません。これらの定量データの拡充が、透明性の高い情報開示に向けた次なる課題と言えます。

③ 一貫したストーリー性


【評価できる良い点】
「建設業における事業の根幹は人財であり、人が工事を受注し、安全かつ高品質にその工事を成し遂げることの繰り返しにより事業が成立する」という、事業の本質を深く理解した基本認識からストーリーがスタートしている点が見事です。この哲学を起点として、「人財の量的確保(採用)」「人財の質の向上(育成)」「働きがいの追求・組織風土改革(定着)」という3つのフェーズが、分断されることなく一本の論理的なストーリーとして美しく語られています。
例えば、採用段階では「日本学生支援機構の奨学金返還支援(代理返還)制度の活用」や「新卒初任給の引き上げ」で人材を惹きつけ、入社後は「NTアカデミー」で知識とスキルを標準化して育て上げます。さらに、タレントマネジメントシステム(従業員の能力やスキルを一元管理し、戦略的な育成や配置に活かす仕組み)の活用やコミュニケーションの活性化によってエンゲージメントを高め、結果として離職率を低下させるという、人材の好循環(ライフサイクル)を描き切っている点は、非常に一貫性があり説得力に富んでいます。

【今後の課題・改善点】
美しい人事施策のストーリーが描かれている一方で、「働きがい」や「従業員エンゲージメント」を実際に測定するための、エンゲージメントサーベイ(従業員意識調査)の具体的なスコアや、そこから明らかになった自社特有の組織課題についての記述が見当たりません。「タレントマネジメントシステムの活用」等の仕組みを導入したことは理解できますが、それが現在どのように機能し、従業員の声をどのように拾い上げて施策に反映させているのかという「運用の実態」に関するストーリーが開示されていない点は、今後の課題となります。

④ 戦略、人事、従業員処遇体制の一貫性


【評価できる良い点】
人財戦略の各種取組みが、「基本給」「各種手当」「賞与」という3つの報酬体系にどのように反映されるのか、その決定プロセスが極めて明確に開示されている点を高く評価します。基本給は「等級毎に設定された給与額に対して成果評価と行動評価の積み上げ」により決定され、賞与は「直近事業年度の人事評価と会社(部門)業績」に基づき支給される仕組みとなっており、個人の役割や成果が処遇に直結する公正な体制が整っています。
さらに、建設業ならではの「作業所手当」や、経営戦略として掲げる「資格保有率75%以上」という目標を強力にバックアップするための「免許手当」「資格取得・免許教育費用等の助成や祝金」が制度化されています。求める能力や行動が、金銭的なインセンティブとして従業員に直接還元される仕組みが構築されており、戦略から処遇までの見事な一貫性が確認できます。

【今後の課題・改善点】
評価と報酬の全体的なフレームワークは明記されているものの、人事評価における「成果評価」や「行動評価」が具体的にどのような基準(KPI)で測定されるのかといった、評価制度の詳細に関する記述が見当たりません。
また、生み出した収益や物価上昇の状況等を考慮に入れた「賃金の引上げを含む処遇改善等を検討してまいります」という表現にとどまっており、具体的なベースアップの数値目標や、過去の実績額が開示されていません。従業員のモチベーションをさらに高め、労働市場における採用競争力を強化するためには、評価基準の透明性向上と、具体的な報酬引き上げのロードマップの開示が期待される伸びしろです。

4. まとめ

南海辰村建設株式会社は、建設業の本質が「人」にあることを深く理解し、人材への投資を経営の最優先課題として真正面から取り組んでいる企業です。就活生や転職を考える若手人材にとって、企業内学校「NTアカデミー」を通じた体系的な教育システムや、資格取得に対する手厚い手当・祝金制度は、建設のプロフェッショナルとしての確かなキャリアと専門性を築く上で、非常に魅力的な成長環境と言えます。
また、奨学金返還支援(代理返還)制度の活用や新卒初任給の引き上げなど、若手の生活基盤を多角的に支える姿勢からは、社員を会社の財産として大切に育てる温かい社風が伺えます。

一方で、企業研究を深める上で留意すべき点として、女性活躍の実態など多様性の推進状況について「現状の実績データは開示されているものの、将来に向けた具体的な数値目標が示されていない点」や、最新の評価基準の具体的な詳細が開示されていないことが挙げられます。また、生産性向上の鍵としてDX推進を掲げてはいるものの、デジタル人材としての具体的なキャリアパスはまだ明確に示されていません。
同社への入社を検討するにあたっては、面接やOB・OG訪問等の機会を積極的に活用し、「若手は具体的にどのような行動が評価されるのか」「女性や多様な人材が現場でどのように活躍し、将来に向けてどのような改善策が進行中なのか」といったリアルな情報を自ら収集し、自身の思い描くキャリアビジョンと合致するかを見極める視点を持つことが重要です。同社の実直で堅実な育成基盤を最大限に活かしつつ、自ら働きがいを見出し、組織の変革(DXや風土改革)に主体的に関わっていく意欲のある人材にとって、存分に実力を発揮し活躍できるフィールドが広がっている優良企業であると評価できます。