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#213 【サービス業】KNT-CTホールディングス株式会社(9726)の人的資本開示|有価証券報告書(2026年3月期)

1. ひとこと総評

KNT-CTホールディングス株式会社の人的資本開示を読み解くと、同社が現在、歴史的な事業変革の真っ只中にあることが鮮明に伝わってきます。最大のトピックは、2026年5月の取締役会で決議・契約締結された、2027年4月1日付での「クラブツーリズム」「近畿日本ツーリスト」「近畿日本ツーリストブループラネット」の主要3社の吸収合併という「一社化」に向けた動きです。
この巨大な組織再編を成功させるため、持株会社としてグループ共通の「ジョブ型要素を反映した人事制度」や「タレントマネジメント」を導入し、人事ローテーションを活性化させるなど、経営戦略と人事戦略を強力に連動させようとする並々ならぬ決意が伺えます。親会社である近鉄グループとの連携による人財交流も独自の強みです。
一方で、制度のフレームワーク(枠組み)は示されているものの、一般従業員が具体的にどのように評価され、給与に反映されるのかというミクロな処遇体制や、新規事業を牽引するIT・DX専門人材の獲得目標に関する具体的な開示は見当たりません。
総じて、変化を恐れず新たな価値創造に挑戦したい若手人材にとって、組織の枠を超えたダイナミックな成長機会に溢れる魅力的なフェーズにある企業だと評価できます。

2. 人的資本開示 4つの評価ポイント概要

以下の4つの評価ポイントについて、倉庫管理人独自の視点で評価(◎, ◯, △, ×、※情報不足の場合は「-」)を行いました。

評価ポイント 評価 一言コメント
① 経営戦略との連動性 主要3社の吸収合併(一社化)に向けた適所適材の配置は素晴らしいが、DX推進等の専門人材獲得方針の開示がない。
② 開示データの数値と変化 コンプライアンス関連等の独自KPI進捗や一社化に伴う目標見直し方針は評価できるが、エンゲージメントスコアの具体的数値がない。
③ 一貫したストーリー性 事業環境の激変から一社化、風土改革へと繋がる危機感と変革のストーリーが非常に論理的。
④ 戦略、人事、従業員処遇体制の一貫性 賃金改善の全体指針は示されているが、個人の評価制度やインセンティブ設計の具体的な記載がない。

3. 評価ポイントの深掘り分析

各項目について、【評価できる良い点】と【今後の課題・改善点】をセクションごとに分けて詳細に分析します。

① 経営戦略との連動性


【評価できる良い点】
同社は、2026年5月の取締役会にて、2027年4月1日付でのクラブツーリズム、近畿日本ツーリスト、近畿日本ツーリストブループラネットの主要3社を吸収合併するという「一社化」を決定しました。この「分散していた経営資源と意思決定の一本化」というビジョンに対して、人事部門がしっかりと歩調を合わせている点が高く評価できます。具体的には、「適所適材によるグループ全体での人財配置の最適化」を掲げ、従業員のスキルや経験を一元管理するタレントマネジメントの運用を拡充し、人事ローテーションを活性化させている事実が確認できます。
また、旅行・観光のノウハウを持つ人材が、株式会社近鉄HRパートナーズとの連携を通じて、グループ外への出向や定年退職後の再雇用により長期的に活躍できるスキームを構築している点は、大手私鉄グループを親会社に持つ同社ならではの強力な強みです。「KNT-CTアカデミー」という社内教育機関を基軸に、経営戦略と連動した育成プログラムを推進している点も、求める人物像とのリンクが明確です。

【今後の課題・改善点】
経営環境の課題解決策として、「AIの活用によるDXの推進」や、学研ホールディングスと連携した「未来創造事業」のような異業種コラボレーションによる新サービス提供を掲げています。しかし、これらの新しいビジネスモデルを牽引・開発するための、ITエンジニア、データサイエンティスト、あるいは新規事業開発のスペシャリストといった「高度専門人材」の具体的な獲得方針や目標人数に関する開示は見当たりません。事業構造の変革を担う専門人材をどのように採用し、既存組織に組み込んでいくのかという記載がない点は、今後の伸びしろと言えます。

② 開示データの数値と変化


【評価できる良い点】
法定開示項目にとどまらず、自社の経営課題に直結した独自性の高いKPI(重要業績評価指標)を設定している点が優れています。同社が「最優先課題」として掲げるコンプライアンス改革に対して、「管理職におけるビジネスコンプライアンス検定資格取得率」という明確な指標を置き、2027年度末目標100%に対し、2025年度末時点で既に94.5%まで到達させていることは、企業の意図が数値目標と実行力にしっかりと反映された好例です。
さらに、「管理的地位にある労働者に占める女性労働者の割合(2030年度末目標35%)」や、「新卒社員に占める入社後3か年以内の退職率(2027年度末目標20%)」など、DEI(多様性、公平性、包摂性)や若手定着に関する具体的なマイルストーンを開示している姿勢は、企業の透明性を示すものとして高く評価できます。
また、2027年4月の一社化に伴い、女性活躍推進(えるぼし認定)や健康経営の目標数値については、組織体制の統合に合わせて2027年度に見直す予定である旨の注記があり、事業構造の変化に即してKPIを適切にアップデートしようとする誠実な姿勢も確認できます。

【今後の課題・改善点】
「人(意識)の改革」の具体的な施策として、全経営陣と全社員を対象とする社員意識調査を実施し、「社員のエンゲージメント(従業員の企業に対する愛着や、自発的に貢献しようとする意欲)の把握」を行っている旨の記載があります。しかし、その意識調査から導き出された実際のエンゲージメントのスコアや、次年度に向けた改善の数値目標についての具体的な記述は見当たりません。現状の組織の健全性を示す重要なアウトプット指標が非開示となっている点は、今後の情報開示における課題です。

③ 一貫したストーリー性


【評価できる良い点】
事業環境の分析から組織課題の抽出、そして具体的な人事施策へと至るストーリー展開が非常に論理的です。「国内市場の縮小」と「訪日旅行需要の拡大」という事業環境の激変に対し、既存事業の延長線上にとどまらない「変化対応企業への転換」を宣言。その中核手段として「一社化」を決定し、それを成し遂げるために「まだ見ぬところへ、まだ見ぬ明日へ」というパーパス(存在意義)を制定しています。
そして、このパーパスを絵に描いた餅に終わらせないため、タウンホールミーティングを通じて経営陣と社員の対話を重ね、「企業風土の改革」に取り組んでいるという一連の流れは、経営と現場を繋ぐ見事なストーリーテリングと言えます。また、サステナビリティの重要課題として「ウエルビーイング(幸福で健康的な生活)に『旅』で貢献」を掲げるなど、本業を通じた社会貢献のストーリーも一貫しています。

【今後の課題・改善点】
「健康経営」に関して、社員が意欲的に働き続けるために「健康経営宣言」を行い、「健康経営優良法人」や「健康優良企業『銀の認定』」の取得目標を掲げていることは記載されています。しかし、具体的な働き方改革の取り組み内容(例えば、残業時間の削減策、メンタルヘルスケアの導入、リモートワークの活用など)や、それがどのように社員の健康増進や生産性向上に寄与しているかという、施策の具体的な中身と結果を結ぶストーリーの記述は見当たりません。目標の羅列に留まっている点は改善の余地があります。

④ 戦略、人事、従業員処遇体制の一貫性


【評価できる良い点】
組織再編という経営戦略を下支えする人事戦略として、「グループ共通の管理職人事制度」を導入し、次世代経営職の発掘・育成を図っている点が明記されており、グループ全体でのマネジメント水準の統一が図られています。また、人事制度において近年注目される「ジョブ型要素(担当する職務の内容や責任に基づいて評価・処遇する仕組み)」を反映した制度を段階的に拡充している事実から、年齢や年次にとらわれず、役割に基づいた処遇へと移行しようとする近代的な姿勢が評価できます。
さらに、管理職以外の従業員に対しても「役割・貢献に応じた処遇を基本方針」とし、会社として「賞与や賃金改善においては当社がグループ統一の指針を示し、積極的な引上げ・改善を図る」と明確に宣言している点は、従業員のモチベーション向上に直結する素晴らしい方針です。

【今後の課題・改善点】
賃金引上げの全体方針やジョブ型要素の導入といった大きな方向性は示されているものの、日常の業務において「個人が具体的にどのようなプロセスで評価されるのか」「目標の達成度がどのように基本給や賞与(インセンティブ)に反映されるのか」といった人事評価制度の具体的な仕組みについての記述が見当たりません。努力や成果がどのように報われるのかという処遇の透明性が不足している点は、就活生や転職希望者が入社後のキャリアを描く上で判断に迷う要素となるため、今後の開示拡充が待たれます。

4. まとめ

KNT-CTホールディングスは、歴史ある大手旅行会社でありながら、2027年4月に控える主要3社の吸収合併・一社化という大規模な事業構造改革に向け、まさに「第二の創業期」とも呼べる激動と挑戦のフェーズにあります。
有価証券報告書の人的資本開示からは、この変革を乗り切るために「ジョブ型要素の導入」や「タレントマネジメントの活用」など、組織の枠を超えた最新の人事施策を次々と打っていることがわかります。「まだ見ぬ明日へ」というパーパスの通り、既存の枠組みにとらわれず、自律的にキャリアを切り拓きたい若手人材にとっては、多様なポジションや挑戦の機会が用意された非常にエキサイティングな環境と言えるでしょう。

一方で、ジョブ型要素を取り入れた評価制度が、具体的にどのように個人の給与や昇進に直結するのかといった「ミクロな評価の仕組み」については、開示情報だけでは全容が見えません。企業研究を進める就活生や若手人材の皆さんは、面接やOB・OG訪問の場において、「若手社員はどのような目標設定を行い、成果はどう評価されているか」「異動やキャリア形成の希望はどのように実現されるか」を具体的に質問することで、入社後のリアルな働き方と処遇の解像度を高めることをお勧めします。