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#130 【陸運業】株式会社ヒガシホールディングス(9029)の人的資本開示|有価証券報告書(2026年3月期)

1. ひとこと総評

2025年4月に持株会社体制へ移行し、成長を加速させている株式会社ヒガシホールディングスは、物流業界最大の課題である「労働力人口の減少とトラックドライバーの時間外労働上限規制」に対し、正面から人的資本投資で立ち向かっているポテンシャルの高い企業です。
経営戦略と人事施策が極めて論理的に結びついており、「退職率」や「エンゲージメントスコア」、さらには「働きやすい職場認証制度」の取得に至るまで、具体的なKPIを設定し、目標と実績の進捗を包み隠さず開示している点は高く評価できます。
一方で、今後の成長ドライバーとして位置づけられている「DX推進」や「ICT機器キッティング事業」を牽引する高度なIT専門人材の具体的な育成・処遇に関する開示が見当たりません。この成長領域における人事制度の具体化と開示が、今後の企業価値をさらに高めるための大きな課題(伸びしろ)であると結論づけられます。

2. 人的資本開示 4つの評価ポイント概要

以下の4つの評価ポイントについて、倉庫管理人独自の視点で評価(◎, ◯, △, ×、※情報不足の場合は「-」)を行いました。

評価ポイント 評価 一言コメント
① 経営戦略との連動性 3PL事業拡大等の経営戦略と、大型物流センター稼働に伴う計画的な人員確保が明確にリンクしています。
② 開示データの数値と変化 退職率やエンゲージメント等の独自指標において、明確な数値目標と実績値が対比して開示されています。
③ 一貫したストーリー性 パーパスを起点とし、人材育成の3本柱からエンゲージメント調査での課題把握へと見事な論理展開です。
④ 戦略、人事、従業員処遇体制の一貫性 等級・評価・報酬の基本方針は明確ですが、具体的なインセンティブ制度等の詳細開示に伸びしろがあります。

3. 評価ポイントの深掘り分析

各項目について、「評価できる良い点」と「今後の課題・改善点」の双方の視点を取り入れ詳細に分析します。

① 経営戦略との連動性

【評価できる良い点】
同社の人的資本開示における最大の強みは、事業戦略と採用・育成戦略が極めて直接的に連動している点です。経営戦略において「3PL事業・EC物流の拡大」「ICT機器キッティング事業の強化」「DX推進」を掲げており、これらを実現するための基盤として、「大型物流センター稼働に伴う計画的な人員確保」「専門スキルを有する中途採用の拡大」を明記しています。
さらに特筆すべきは、物流業界全体のマクロ環境課題である「トラックドライバーの時間外労働の上限規制」や「労働力人口の減少による輸送力不足」に対して、単なる事業上のリスクとして終わらせるのではなく、人的資本の観点から「働きやすい職場認証制度(2つ星)の取得」や「労働条件・労働環境の整備」という具体的な解決策を紐づけている点です。外部環境の脅威を組織の魅力を高める機会へと転換する、戦略性の高いアプローチであると評価できます。

【今後の課題・改善点(伸びしろ)】
一方で、事業成長の重要な柱として掲げられている「DX推進」や「ICT機器キッティング事業」を牽引する専門人材に関して、具体的な育成方針や確保の計画に関する記述が見当たりません。
一般的な物流人材やマネジメント層の育成(「匠塾」の実施など)については詳細に記載されていますが、急速に高度化するIT・システム領域のスキルを持つ人材をどのように自社で育成(あるいは採用)していくのか、そのための具体的な研修名や定量的な確保目標が開示されていない点は今後の大きな課題です。事業ポートフォリオの変化に伴う「必要な専門スキルの定義」を開示することが、成長ポテンシャルのさらなる証明に繋がります。

② 開示データの数値と変化

【評価できる良い点】
開示データにおいて、定性的なスローガンにとどまらず、非常に豊富で具体的な独自指標(KPI)を設定し、2026年3月期の実績と2028年3月期の目標を対比させている点は極めて優秀です。
例えば、「エンゲージメントスコア」(従業員が会社に期待する価値と実感値とのギャップを測る指標)を導入し、回答率99%という高い数値を達成した上で、「1年で1pt上昇を目標とする」という現実的かつ明確な基準を設けています。また、「退職率(実績15.9%→目標11%)」「匠塾の総受講時間(実績449時間→目標500時間)」など、人材の定着と育成に直結する生々しい数値を逃げずに開示しています。さらに、「男性育児休業取得率」が実績で82.6%に達している点は、労働環境の良さを物語る強力なデータです。

【今後の課題・改善点(伸びしろ)】
多岐にわたる目標設定がなされているものの、「男女の賃金差異」の目標についてのみ「女性管理職増加等の取り組みにより差異を縮小させていく」という定性的な記載にとどまっており、具体的な数値目標が設定されていない点は改善の余地があります。
また、コンサルタントの視点からは、研修時間の増加(匠塾の受講時間拡大など)といった「インプットの指標」だけでなく、それが従業員の生産性向上や新規サービスの創出といった「アウトプット(業績貢献)」にどのように結びついているのかを示すROI(投資対効果)的な指標が不足していると感じます。研修の効果を業績データと紐づけて分析・開示することが今後の伸びしろとなります。

③ 一貫したストーリー性

【評価できる良い点】
同社の人的資本開示は、極めて緻密な論理構成で描かれています。まず、グループパーパスである「安心をずっと、驚きをもっと。〜」への共感を土台とし、求める人材像を「新たな価値を創造できる人材」と定義しています。その上で、育成の柱を「変化を楽しむ企業文化の醸成」「マネジメント人材の育成」「現場力の向上」の3つに分解し、それぞれに対して関連するKPI(女性管理職比率、管理職登用率、匠塾の受講時間など)をマトリクス形式で割り当てています。
「理念の定義」から「育成方針の策定」、そして「エンゲージメント調査を用いた期待と実感のギャップ測定(課題抽出)」へと流れる一連のストーリーは、組織の現状を客観的に把握し、継続的に改善(変革し続ける企業)しようとする同社の真摯な姿勢を見事に表現しています。

【今後の課題・改善点(伸びしろ)】
ストーリー性においてほぼ申し分ありませんが、あえて指摘するのであれば、有価証券報告書内で触れられている「人権デュー・デリジェンス(人権DD)」や「サプライチェーン全体での労働問題・環境問題への配慮」といったESG全体の取り組みが、従業員のエンゲージメント向上や採用競争力にどう好影響を与えているのかという統合的なストーリーが見当たりません。
「社会貢献や人権の尊重に積極的な企業だからこそ、優秀な人材が集まり、誇りを持って働ける」というように、サステナビリティの取り組みと人的資本の強化を有機的に結びつけるナラティブ(物語)が補完されると、より強固なストーリー性を持つ開示となるでしょう。

④ 戦略、人事、従業員処遇体制の一貫性

【評価できる良い点】
従業員の給与や報酬に関して、「職務価値・役割・責任範囲に応じた等級制度の採用」「業績目標の達成度や職務遂行能力の総合評価による昇給・賞与への反映」といった基本方針が明確に言語化されています。
また、「評価基準の明確化」や「フィードバック面談の実施」により、従業員が納得感を持てる運用を重視し、働きがい向上と定着促進に繋げようとする姿勢は、エンゲージメントスコアの改善目標としっかりと連動しています。さらに、物流業界の人材需給を考慮し「労働市場と整合した競争力のある給与水準を維持する」と明言している点は、人材確保を経営の最重要課題と位置づける戦略の一貫性を示しています。

【今後の課題・改善点(伸びしろ)】
等級制度や評価・報酬の基本的な枠組みは示されているものの、具体的な処遇制度の詳細についての記述が見当たりません。
例えば、高い成果を出した従業員に対する「具体的なインセンティブ制度の有無」や、役職や職種に応じた「金銭報酬と非金銭報酬のバランス」、さらにはITやDXを担う専門人材に対して独自の給与テーブルが用意されているのか等、制度の具体的な中身が開示されていません。基本方針という「枠組み」にとどまらず、実際の「運用や制度の独自性」を具体的に開示することが、求職者や投資家に対する処遇の一貫性のさらなる証明に繋がります。

4. まとめ

株式会社ヒガシホールディングスは、単なる物流事業にとどまらず、3PLやICT機器キッティング事業へと領域を広げ、持株会社体制のもとで急速な成長と変革を遂げている非常にポテンシャルの高い企業です。有価証券報告書の開示からは、業界の逆風である「人手不足」に対して、エンゲージメント調査や「働きやすい職場認証制度」の取得など、科学的かつ誠実なアプローチで従業員を大切に育てようとする真摯な企業姿勢が強く伝わってきます。
入社した場合、若手向けのマネジメント育成や「匠塾」といった実践的なスキルアップの機会が豊富に用意されており、変化を楽しみながらキャリアを築ける恵まれた成長環境があります。一方で、急成長に伴うIT・DX化の波の中で、専門的な知識の習得や主体的な行動がより一層求められるシビアな側面もあるでしょう。
就職活動や企業研究を進める皆さんは、面接の際に「新規事業領域(DX等)での具体的な評価基準」や「自分自身の専門性を高めるためのキャリアパス」について積極的に質問し、変革し続ける組織の中で自ら価値を創造していく意欲をアピールすることが、成功への大きなカギとなります。